この自分が手錠をはめられる人間に…
川村検事から何か言いたいことはあるかと問われ、私は答えた。
「容疑は事実無根です。私は、犯人隠避の教唆も共謀もしていません」
川村検事に耳を貸す気配はなかった。はじめから結論が決まっているかのように、その後の手続を淡々と片づけてゆく。
私は拘置所へ移されることになり、手錠をはめられた。これまでの人生で、手錠を経験したことはない。手錠をはめられた瞬間、まだプリズンの門をくぐってもいないのに、もう塀の中の住人、「中の人」になったような意識が強烈に押しよせた。
「この自分が手錠をはめられる人間になった」
という衝撃が強く、一気に社会から切りはなされたような錯覚を覚える。手錠はただの金属ではなく、人生の転落を象徴する烙印(らくいん)のような重みをもっていた。
手錠をかけられたまま検察庁のワゴン車に乗せられ、後部座席の真ん中に座らされる。両側には地検の職員二人が乗りこみ、脇を固めてくる。車のエンジン音に交じって、手錠の触れあう音がかすかに聴こえてくるような気がする。
たむろしていたメディア
出発して間もなく、思いがけない出来事が起きた。
庁舎の前には、私が逮捕されることをなぜか知っていたメディアの人たちがたむろしていて、私のいわゆる雁首(がんくび、被疑者の顔写真のこと)を撮影しようと待ちかまえていた。そこに、庁舎の自動車通用口からワゴン車が出てきたので、メディアの人たちはむらがり、一斉にカメラを向けてきた。
そしてなんと、ワゴン車が庁舎前の交差点に差しかかったとき、目の前の信号が赤になったのだ。しかもそのとき、私の乗せられたワゴン車は、目隠しはおろか、カーテンさえ引かれていなかった。
そして私は、信号が青になるまでの間、何の覆いもされていないワゴン車の後部座席の真ん中で、両手に手錠をはめられて動かせないまま、写真と動画を撮られつづけた。
すさまじい体験だった。
