量子コンピュータという言葉を耳にする機会が増えた。その土台にある「量子力学」とは何か、そして、従来のコンピュータと何が根本的に違うのか。京都大学教授で量子コンピューティングを専門とし、『教養としての量子コンピュータ』(ダイヤモンド社)を著した藤井啓祐氏が、文藝春秋PLUSの番組に出演し、量子の世界をかみ砕いて語った。(全2回の1回目/続きを読む

【量子コンピュータは世界の常識を変える】成長17分野・量子テクノロジーの伸び代は「2035年に14兆円規模」|日本の量子コンピュータ企業…第一人者の富士通、そしてNEC・東芝【藤井啓祐】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年4月6日配信)

「目に見える世界」と「目に見えない世界」

 古典物理学はボールを投げたときの軌道など、日常で目に見える現象を扱う。一方、量子力学は原子1個、電子1個といったナノメートルスケールの極微の世界を記述する物理学だ。藤井氏は「直感的に理解するのが難しい。いろいろな不思議な性質がある」としつつも、その歴史はすでに約100年に及ぶと説明する。1925年にハイゼンベルグが、翌1926年にはシュレーディンガーが量子力学を定式化した。

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藤井啓祐氏

 レーザーや半導体といった身近なテクノロジーにも量子力学は使われているが、「量子力学のさらに不思議な部分を直接引き出して使おうというのが、世界的に流行している量子技術」と藤井氏は位置づける。

波であり粒子でもある——二重スリット実験

 量子の不思議さを端的に示すのが、二重スリット実験である。電子を1粒ずつ、2つの穴が開いた壁を通してスクリーンに向かって打つ。古典的な粒子であれば左か右、どちらか一方のスリットを通るはずだ。ところが実験結果には、波に特有の干渉縞が現れる。

『教養としての量子コンピュータ』(藤井啓祐 著)より(イラスト:東海林巨樹)

 藤井氏はこう語る。「干渉縞が現れるということは、1粒しかない電子が両方のスリットを通過していることになる。電子はこれまで空間の一点に確実に存在すると思われていたが、その考え方では説明がつかない」。電子は空間に波として広がり、伝搬し、干渉を生む。これが量子力学における「重ね合わせ」の核心である。