正直に書きますね、私は北大路魯山人って苦手だったんですよ。食と美の巨人とか、時の権力者や海外の著名人も魅了した料理人っていう伝説がね。
似てませんか、二十年前の白洲次郎ブームと。敗戦下にマッカーサーとわたりあい、対米講和条約では吉田茂にアドヴァイスし、時計はロレックスで愛車はブガッティ。そんな白洲次郎に人びとは憧れた。
格好いいですよ、お二人とも。でも、わかりやすいっていうか、ヒーローとして通俗的に過ぎませんか。
その私が『魯山人のかまど』を半ば期待して観たのは、魯山人役の藤竜也に次いで、古川琴音の名がキャストにあったからだ。
魯山人の高級料亭「星岡茶寮(ほしがおかさりょう)」は、その会員に非ざれば名士の資格なし、といわれるほど俗物たちの羨望の的となる。彼は大正末期から北鎌倉の広大な土地で陶芸と料理に没頭した。戦後も鎌倉を訪れる俗物は引きも切らず。
そんな晩年の魯山人を取材して半生を聞くために訪れたのが雑誌記者の田ノ上ヨネ子(古川琴音)だ。物怖じしないし、媚びない。そう、媚びちゃダメです。急に抱きついたり相手の名前を呼び捨てしたり。
毅然としたヨネ子に心を許した魯山人は京都行きを命じる。京の山中で使用人と鮎を捕り、樽に入れて生きたまま持ち帰るという苦行である。水を動かさないと鮎は死ぬから、重い樽をパシャパシャ叩きながら大磯まで運ぶ。
大磯。当時の首相、吉田茂(柄本明)が住む。初夏に鮎とは月並みと一笑に付す吉田だが、焼き鮎を口に入れた途端に表情が変わって、ただひたすら鮎をむさぼり食らう。ていねいな仕事をした魯山人も凄いが、重い水の入った樽をパシャパシャ叩いて、鮎の鮮度を保ったヨネ子も偉い。
古川琴音はね、表情も個性的だけど、身体表現も卓越しているの。なんのために使うか知らない鮎の入った重た~い樽を京都から湘南まで。その動きが笑えてチャーミング。
藤竜也も文句なし。京都の上賀茂に生まれ、その後は“捨て子”同然の辛い幼少期を送った男だ。養家の大人たちに気に入られるため、残り御飯にひと手間かけて、さらにオコゲ御飯で大人の心を掴んだ。
人生の辛酸を嘗めた男だから、世間知らずの純朴な娘に心を開き、捨て子の辛さまで語った。藤竜也、八十四歳。フェロモンたっぷり、あんな爺さんに俺もなりたい。古川琴音のベストシーン。「桑港のチャイナタウン」を畑の中で歌うとこかな。〽サンフランシスコの、チャーイナタウンって、手を大きく振り踊る仕種と表情にコロリやられた。古川琴音が動き、笑うだけで尊い気配が漂う。映像も美しいし、音楽も心地良い至福のドラマだ。
『魯山人のかまど』
NHK総合 火 22:00~(全4回)
https://www.nhk.jp/g/ts/Y8L4365YL3/



