古い日本家屋の中を青い虎が悠然と歩いている。
「今朝書斎に入ってきた。どうやって障子を開けたのか。器用だと思わないか」
祖父(奥田瑛二)がそう回想すると、少し物憂げに微笑んで楓(吉川愛)は話を合わせて返した。
「噛まれなくて良かったね」
もちろん、祖父が見ている虎は実在しない。彼はレビー小体型認知症を患っており、その特徴的な症状が「幻視」。『名探偵のままでいて』(テレビ朝日)は、ミステリーマニアの孫娘が語る事件の謎を、この祖父が解き明かしていくドラマだ。
原作は、第21回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した同名小説で、作者・小西マサテルの経歴は異色。小西は高校の落語研究会でウッチャンナンチャン・南原清隆の1年後輩で先輩を追うように上京し、お笑い芸人としてデビューした。その後、渡辺正行の勧めで放送作家に転身し、ラジオ『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)の構成を1部に昇格した1994年7月から現在に至るまで担当している。その傍ら、王道ミステリー好きだった彼は小説を執筆。祖父がレビー小体型認知症という設定は、小西自身の父が同じ病気を患っていたことから着想を得たものだという。
本作の大きな魅力は、全編にミステリー小説への愛情があふれていること。楓は、小学校教員の同僚・岩田(髙松アロハ)から後輩の四季(綱啓永)を紹介される。四季は楓のカバンから覗く“不可能犯罪の巨匠”ディクスン・カーの本を目ざとく見つける。彼もまたミステリーマニアなのだ。しかし“流派”が違う。「翻訳もののクラシカルな本格ミステリーなんてよく読めるなって」「舞台設定、キャラ設定、翻訳がとにかく古い上に登場人物の名前がとにかく覚えにくい」などと悪態をつきつつも、スラスラと登場人物名を挙げられるくらいしっかり翻訳ものも読んでいる。二人が早口で交わす会話は、いかにも筋金入りのマニア同士で思わず笑ってしまう。事件のモチーフやシチュエーション、解決の糸口にも古今東西のミステリーへのオマージュや引用が巧みにちりばめられている。
原作では「楓、煙草を一本くれないか」という台詞が、祖父が“覚醒”し、いわゆる安楽椅子探偵になる合図だったが、ドラマでは「楓、香りを焚かせてくれないか」とお香を焚くことに改変されている。原作ファンからすると少し惜しい気もするが、これはこれでドラマの雰囲気に合っている。そこから幻視による推理が始まると、見えざるものを見ている奥田の演技は圧巻。一気に引き込まれる。
全編にわたり、どこか物悲しい切なさが香煙のごとく仄かに漂っている。その静かな余韻をじっくり味わいたくなる一作だ。
『名探偵のままでいて』
テレビ朝日 金 23:15~
https://www.tv-asahi.co.jp/meitanteinomama/



