――テミン、ナダンに加え、42歳を迎えつつあるのにラブコメにばかり呼ばれてしまうイケメン俳優・ゴヌの存在もあり、韓国芸能界が立体的に浮かび上がっていきますね。それぞれの人生の歴史と、故郷との関係性も興味深いです。
桐野 故郷喪失はテーマの一つでした。ナダンは幼いころにIMF危機の影響で、一家でアメリカへ移り住みます。当時は働き口を求めて海外へ移住したり、海外へ養子へ出されることも珍しくなかったと聞きます。貧困のなかで、帰りたくても戻る場所を失い、しかしアメリカにも居場所を見いだせない彼は、アイドルになることで一度は韓国で大きな成功を果たすのですが、その後また、故国である韓国芸能界からも追放されてしまう。
一方、テミンは裕福な家に育ち、IMF危機を経てもアメリカへ「留学」できるような家の出です。それがのちの俳優活動にも後押しとなる。そうした格差もまた、韓国の現状であると思います。
つかみどころのない男に惹かれてしまう
――ナダンはいわゆる「昭和の破天荒なスター」のようなところがありますね。女性問題で訴えられ、大麻で捕まり、ついにはYouTuberからつるし上げを食らう……しかし圧倒的な魅力を放ち、見る人を引き付けてしまう。つかみどころのない人間です。
桐野 つかみどころがないように見えるのは、ナダン自身が自分のことをわかっていないからでしょう。彼は10代にデビューし、あっという間に成功したから、自分という主体ができる間もなく混沌のなかに放り込まれてしまいました。IMF危機にしろ、アイドルとしての成功にしろ、自分の力ではどうしようもない大きな何かに常に振り回されています。だから、ナダンはいろいろな事件を起こしますが、決して「黒い」エネルギーがあるわけではない。悪いことを考えたり、パワーをもって悪に向かうのではなく、弱さゆえにそうなってしまう。それは悪を体験しないまま若い時代を終えてしまったからかもしれません。
――ひきかえ、テミンは日本で言う「令和っぽい」俳優だと感じます。自分のふるまいをちゃんとコントロールして、計算高くポジションを取りに行く。崩れないからこそ安心して推せるというか。
桐野 テミンは、美男じゃないけど、裕福だし、頭がいい。運がいいタイプですね(笑)。小狡いというか、ちょっと「黒い」ところがある。やっぱり、成功するにはある程度黒いところがないとなかなかうまくいかないんじゃないかと思います。テミン自身は必死に自分を理解しようと努めている。それなのに、自分自身をわかっていないナダンに惹かれるのです。だから面白いですね。
【あらすじ】
33歳で遅咲きのデビューを果たし、人気俳優として活躍するパク・テミンは、「終わった男」ことニック・ナダンについて語り始めた。
10代の頃、ともに過ごしたヴァージニア州・アナンデールでの日々。
しかし道は分かれ、ナダンは驚くべき速さで成功を収め、
これまた驚くべき速さで凋落していった。
世界を股にかけるK-POPグループの一員であるという酩酊と、芸能界からの追放。
挫折と成功、「生と死」、ふたりの男の運命が交錯する。

