現在、居飛車党において伊藤と同じレベルの研究量を持つ棋士は、一人か二人いるかどうかだという。
「ただ研究量と読む力がいくらすごくても、それだけでは勝てない。大局観、要は読まないでもわかる部分が、どれだけ広いかということなんです。そこの形勢を見極める判断力が、彼のほうが正しい気がします」
冷静と情熱
本田自身のタイトルへの想いはどうなのだろうか?
「八冠の一角が崩れたことで、挑戦権を争っている棋士は思うところがあるかもしれません。でも今の私はそういうステージじゃない。四段になった頃は、ハングリーさとは違った、もっと楽観的なところがあったと思いますが。ずっと藤井さんの無双っぷりを見てきましたからね。この間に、だいぶ達観した棋士は多いと思います。もう藤井さんと戦うという具体的なイメージを持っているのは、上位数%の人しかいない。私は藤井さんに対する気持ちを聞かれても、あまり関係ないという感情です。ただ、自分が戦う相手への闘志はなくなってはいません」
本田クラスの棋士が、ここまで自らの立ち位置を厳しく見つめていることに驚かされた。デビュー直後の棋王戦挑戦が、その後の自分にのしかかってくるものがあったのだろうか?
「確かにそうですね。なんだかんだで、1年目の成績が一番良かったですから……。あのときは自分でもすごいビックリしたんです。でも、やっぱり伊藤君が挑戦したときとは、別な感じがしますけども」
これからの自分への課題は何なのだろうか?
「中終盤の力を伸ばすこと、それは間違いないです。ただその方法が、ずっと見つからない。棋士の中でも、わかっている人はいないんじゃないでしょうか。詰将棋とかがそこまで関係あるとは思えないですし、無難なのは実戦ですけど、それは誰でもやっていますから。現状は永瀬さん(拓矢九段)や伊藤君に倣った勉強法をしている感じです」
本田は声に抑揚を感じさせることなく、整然と話していた。その言葉の裏に、自問を繰り返し幾多の壁を乗り越えてきた重みが感じられた。今は自らを冷静に見つめることで、新たな出発点を探しているようだった。
写真=野澤亘伸
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