消防の調査により、火災の原因が不明とされたことが、「陰謀論」の広がりに拍車をかけたのだろう。開発公社は「ありえないことだ」と否定した。
焼け跡にテントを建てることで、タルトンネに留まり続けようと…
なし崩しに立ち退きが進むことを危惧する被災者の一部が、火災現場へと引き返し始めた。
彼らは、人生の痕跡である焼け跡にテントを建てることで、タルトンネに留まり続けようというのだ。
この壮絶な光景は番組の映像をご覧いただきたいが、開発公社との正面衝突は、避けられないものになろうとしていた。
「再開発によって消えゆくスラムの最後を記録する」――それが、この番組の、単純明快な趣旨であるはずだった。だが、今や私たちはタルトンネが、どこへ向かっているのか、そしてこの番組が何を記録しようとしているのか、わからなかった。少なくとも、事前に「わかっていたはずのこと」がわからなくなっていた。
都市から流れてくるゴミを拾ってタルトンネが成り立っている
火災翌日の午前10時。退避所で被災者たちの喧騒が続く中、火災現場にひとりの男の姿があった。
タルトンネで廃品を拾い集めて暮らす、キム・ファングク(65歳)だった。
「おい、見ろよ! さっぱりしていい眺めだろ!」
彼は、30年近く暮らしたタルトンネの焼け焦げた遺物を拾い始めていた。
私たちは、火災の前から、廃品を集めるキム・ファングクの姿を記録してきた。
「廃品を拾うこと」。
それは、タルトンネという土地に深く組み込まれた〈経済〉そのものだ。
取材を始めた当時、まず私たちの目を引いたのは、この町自体が、カンナム、いやソウルという都市の巨大なゴミの集積所となっていることだった。
町には日夜、都市で消費された大量の廃棄物が、トラック一杯に積まれ運ばれてくる。
ウイスキーの空瓶、ロードバイク、給湯器、PCの回路基板……。
住民たちもまた、都市から流れてくるゴミを拾い集め、解体し、都市の回収業者へと売りに出る。
あたかもタルトンネという土地自身が、都市が不要とみなした物を通じて「その日暮らし」をしているかのようだった。
火災後のタルトンネに来て2時間あまり、 私たちは何を記録しようとしているのかわからず戸惑っていた。
ただ、せわしなく、体を揺すって焼け跡から廃品を集めるキム・ファングクの背を追いながら、強い感情が沸き起こるのを感じた。
何かはわからないが、何かが終わろうとしている。したがって、私たちは「いま、ここ」を記録する必要がある、と。
◆NHKスペシャル「臨界世界 月の町タルトンネ ソウル最後のスラム」
2026年4月26日(日)夜9時放送。「NHK ONE」で、5月3日(日)まで見逃し配信予定
https://www.web.nhk/tv/pl/schedule-tep-g1-130-20260426/ep/XWRZR7997X

