なぜこれほど騒がれたのか

 たとえば、容疑者や関係者が鳥獣処理施設に勤務しているという誤情報が、瞬く間に拡散された。当の施設にはそもそも常駐の職員はおらず、「全くの虚偽」であるにもかかわらず、役所にはたくさんの迷惑電話などがあり、業務に支障をきたすほどであったと報じられている(※)。

 なぜ、この事件に対して、このような「情報狂乱」が生じたのか。そこには人間心理とメディア構造の双方が関わっている。

曖昧さに耐えられない心理

 まず重要なのは、人間が曖昧さに耐えることを苦手とする存在だという点である。今回の事件では、行方不明から遺体発見まで時間があり、経緯にも不可解な点が多く、初期情報も断片的であった。

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遺体が見つかった現場 ©時事通信社

 こうした状況では、人は「まだ分からない」という曖昧な状態に強い不快感を覚える。心理学では、曖昧さや不確実性は不安を高め、人はそれを抑えるために早く意味づけや答えを求めるとされている。つまり、情報が不足しているときほど、人々は空白を憶測で埋めたくなるのである。

 その結果、「警察は何かを隠している」「隠された真実はこうだ」「怪しいのはこの人物だ」などといった憶測が、根拠もなく無責任に流通し始める。しかも、一度ストーリー化された情報は、人の記憶に残りやすい。単なる未確認情報であっても、もっともらしい筋書きを持つと、人はそれを事実に近いものとして受け取ってしまう。