創業110年を超える吉本興業。多くの人気芸人を抱える“お笑いの老舗”がビジネスの幅を広げている。ライブ配信やオンラインチケット販売を独自で手掛け、海外でもコンテンツビジネスを展開。この数年でグーグル、三菱商事、NTTなど名立たる大手企業と業務提携している。昨年末には、「FANY BANK」で銀行代理業にも乗り出した。
岡本昭彦社長(59)は、ダウンタウンのマネージャーを経験するなどテレビ畑で経験を積み、2019年から社長を務めている。岡本氏に近年のビジネス事情について聞いた。
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――吉本興業の事業は、近年どのように変わりましたか。
岡本 これまでは劇場運営、タレントのマネジメント、そしてテレビ(映像制作)が、事業の「三本柱」でした。10年前の売上比率は、劇場・ライブが24%、マネジメントが20%、テレビが22%で、これだけで全体の3分の2を占めていました。それが2025年には、それぞれの売上は伸びているのに、三本柱の合計は47%と5割を切っています。そのぶん大きくなったのが、YouTubeを始めとしたネットでの配信事業、それに省庁や自治体の案件、海外事業などです。
あえて名前を出さない
――なぜネット配信は、そこまで伸びたのでしょうか。どのような経緯があったのですか。
岡本 先日のWBCを独占中継したNetflixは、「地面師たち」「極悪女王」など日本の独自制作ドラマも話題ですが、彼らが日本に上陸した翌年の2016年、初の日本独自制作ドラマは、実は我々と作っています。又吉直樹原作の「火花」です。その後、「Jimmy〜アホみたいなホンマの話〜」も制作しました。同じ2016年には、スタートしたばかりのAmazonプライムビデオで、松本人志のバラエティ「ドキュメンタル」も独占配信しています。
当時は、テレビ局の方々に「なぜテレビじゃないんだ」と怒られました。特に「火花」は各局からドラマ化のオファーをいただいたのですが、全て断らせてもらいました。Netflixが“ものすごい製作費を出す”という噂に釣られて(笑)。
配信への流れは、コロナ禍で加速しました。感染対策で劇場を閉めると必然的に芸人の仕事がほとんどなくなりました。この状況で考えられる、お客さんと芸人をつなげる手段が配信でした。
その配信の規模が徐々に拡大したことから、2021年に「FANY」というオンライン上のプラットフォームを立ち上げました。ネット配信、劇場のチケット販売、グッズ通販からファンクラブまで、カスタマー(顧客)向けのオンラインサービスを統合したのです。今では会員数は約600万人にまで成長しました。
あえて「吉本」という名前を使わなかったのは、オープンプラットフォームとして、他のコンテンツホルダーの方にも利用してもらいたいから。実際、吉本以外の芸人さんにも使ってもらっており、ビジネスとして育っています。
配信事業は、最初は「劇場に来られない人への代替策」の側面も大きかったですが、スマホでの視聴体験が根付くと新しいエンタメ体験になりました。現在では「配信を見て面白かったから、次は劇場に行きたい」と言ってもらえる好循環が生まれています。

