今をときめく経営者たちが“二度とあんな思いをしたくない”というエピソードを赤裸々に明かした「文藝春秋」(2026年5月号)の特集「わが人生最大の失敗」。KADOKAWA取締役・ドワンゴ顧問の川上量生氏は、どのような「失敗」を経験してきたのでしょうか。

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今も思い出す「トラウマ」

 経営者にとって最も大事なことは何か。それは、「運がいいこと」だと断言できます。頭が良くて才能にも恵まれた人たちが、起業して程なくビジネスに失敗する姿を幾度となく目にしてきました。ロジックで宝くじが当たらないのと同じで、能力があっても運が良くなければ成功できないから、経営は難しいのです。その点、僕より能力が高い人は山ほどいても、運がいい人はなかなかいないと思います。だから1997年にドワンゴを作って以来、大きな失敗をほとんど経験せずに済んできたのですが、ただ一つだけ、今も思い出す、起業して間もない頃のトラウマのような出来事があります。

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 僕には、サラリーマンとして勤めていた会社が倒産して、しばらく失業保険をもらいながら1日中オンラインゲームにハマっていた時期がありました。毎日、めちゃくちゃ楽しかったんです。当時は、部屋に引きこもってゲームやパソコンをしている若者は問題児、通信制高校に通っている生徒は落ちこぼれ、エンジニアなどはその成れの果てで、社会の失敗作とされるような時代でした。でも僕に言わせれば、本来彼らはすごく頭がいいのに、社会が居場所を作っていないだけ。ならば彼らが幸せになる受け皿を作ってあげよう、と起業したのがドワンゴです。

川上量生氏(筆者提供)

 でも、実際にゲーマーを雇って働いてもらったら、理想とは裏腹に彼らは仕事をしないので、経営者としてクビにせざるを得なかった。早々に何のために起業したのか、分からなくなってしまったわけです。

 当然、資金繰りにも窮しました。起業するにあたり、僕は両親に頼んで、老後の資金にする予定だった800万円ほどの退職金を使わせてもらっていました。父が経理の仕事を40年近く続けて受け取ったものでした。もともと僕は親に絶対迷惑をかけたくない性格で、自分で言うのもなんですが、親孝行な息子です。起業するにあたり、誰にも迷惑がかからないように会社を作る前から仕事を受注しておくなど、かなりリスクヘッジをしたつもりでした。でも、資金繰りは想像以上に大変で、800万円では到底足りなかった。給料を遅配してしまったこともあります。

「なんてことをしてしまったんだ……」と自分の甘い考えを後悔しました。あの時、両親は僕に対して何も言いませんでした。でも、周囲からはそれ見たことか、と嘲笑されたと10年くらい経って母から聞かされました。周囲には「自分の子どもの犠牲になるのなら、親として本望」と答えていたそうです。

 その後、成功できたからよかった、とはなりません。たとえば競馬に老後の資金をつぎ込んで、勝ったからOKにはならないように、両親の生活を破壊しかねなかったという事実は変わらないのです。ですから、最大の失敗は、起業することで両親の老後資金を溶かして、心配をかけてしまったことになります。

※約1800字の全文では、川上氏がカドカワ(当時)の代表取締役を辞任した当時の心境や、失敗から学んだことについて詳細に語られています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています(川上量生「親の老後を破壊しかねなかった」)。

文藝春秋

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親の老後を破壊しかねなかった

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】東京極秘対談 ティール×トッド 世界は終末を迎えているのか/池上彰×佐藤優 “暴れ獅子”トランプと“女豹”高市の生きるか死ぬか/官邸官僚の第二の人生

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