ヒコロヒー 私はプロの作家さんとちがって、何か書きたいという初期衝動があるわけじゃないんです。お仕事の依頼があって、そこではじめてペンをとる。モチベーションは正直ないんです。だから「締切が…」とか急かされると、途端にイヤになってやりたくなくなってしまう。担当者さんはいつもあたたかく見守っていてくれるので感謝してます。
向田作品で印象に残った文章や言葉は?
――作家さんのなかには、普段の生活で感じた“怒り”とか“憤り”をモチーフにするという方もいますが、ヒコロヒーさんの場合は?
ヒコロヒー それはありますね。ただ、そういう自分の中の負の感情を昇華させたいなと思うアウトプット先は、コントの方が多いかもしれない。エッセイを読んでくださった方からの感想をみていると、「みんな疲れてるねんな」と思うことが多いんです。それぞれの生活がある中で、私の書いた文章が入り込むっていうのは奇跡的なことだと思っているので、ちょっとでも目に触れた人が、おもろいなと思ってくれたらいいな、と。向田さんの作品でも、あのユーモアのセンスが大好きなんです。
――読んでいて、思わずクスっと笑ってしまいますよね。
ヒコロヒー 私はプロではないので、小説をなりわいにされている作家さんに比べると、レベルがひとつ、ふたつ下なんです。ですから、上手だなと思われようとしないというか、そういう下心は出さないようにしています。とにかく誠実に、これが私の一生懸命ですと自信を持って言えるものだけをお届けしたいんです。
――最後に、向田さんの作品のなかで、印象に残った文章、言葉というのはありますか?
ヒコロヒー そうですね、「独りを慎しむ」(注3)という言葉かな。エッセイのタイトルにもなっていますけど、誰かが見ているからというのではなく、独りでいても、慎しむべきものは慎まなければならない。独りでいるときにこそ品よくありなさい、と。初めて読んだ10代の頃から、心のどこかにこの言葉が残っているんですよね。で、ふとしたときによみがえってくる。独りを慎しまなきゃって。
――ヒコロヒーさん、慎しんでますか?
ヒコロヒー だめですね(笑)。
■プロフィール
ヒコロヒー
松竹芸能所属ピン芸人。ひとりコントを中心に舞台やバラエティ番組、ドラマ・映画出演、執筆、ラジオバーソナリティなど幅広く活躍中。
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注1:「黒じゃなくて青なんだね」(『黙って喋って』所載)…合コンで遥希と出会って、恋に落ちた瞳。遥希のそばにいたい。そう思った瞳は、自分の好みの洋服をクローゼットの奥に隠し、ファッションからメイク、香水まですべて恋人の趣味に合わせてきた。出会ってから3年、遥希は瞳の前から去っていく。
注2:「手袋をさがす」(『夜中の薔薇』所載)…20代半ばの向田邦子は、気に入った手袋に出会えないからと、ひと冬、手袋なしで過ごす。「欲しいものを手に入れるためには、我慢や苦痛がともなう。しかし、自分の我がままを矯めないでやっているのだから、反省するのはやめにしよう」。向田邦子の代表的なエッセイ。
注3:「ひとりを慎む」(『男どき女どき』所載)…30代で実家を出て、アパートで一人暮らしをはじめた向田さん。きびしい父親の監督がなくなったせいで、急激に行儀が悪くなっていった。
Photo : Ichisei Hiramatsu(Bungeishunju)
Hair&make-up : Hayato Takeda(PUENTE Inc.)
Styling : Risa Kamimoto
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すべて オンワード樫山〈uncrave(アンクレイヴ)



