場面は一転、画面は、「株式会社菊地興業」なる看板を掲げるビルを映し出す。ビルに飲み込まれていく大親分。若い衆は、こぞって頭を垂れる。松葉会の大紋のクローズアップ。その大親分は、なんと2代目松葉会会長の菊地徳勝なのである。

 菊地会長へのインタビューが、淡々と始まる。簡単に「インタビュー」というが、大組織の大親分がカメラの前に出てくることは、当時もいまもまことに珍しい光景である。菊地会長は、インタビュアーに「ヤクザとは何か」を問われ、「昔からカタギにだけは手を出すなという教えがあった」と証言。また「人のものに手を出したり、人の女に手を出す者は、指を詰めるものだ」という。

評論家の大宅壮一と対談する安藤昇 ©文藝春秋

小指1本30万円で指詰めのシーンを実写撮影

 そこに、安藤のナレーションが入る。

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「指詰めは、自分自身をカタワにして相手に誠意を尽くすということである。1週間は、その痛みから眠れず、冬になるとその傷口は痛む。明治18年に死んだ会津の小鉄は、親指と人指し指を残して3本ともなかったといわれる」

 安藤によると、指詰めは、まな板の上に手の甲を下にしておこなわれた。俗に映画での指詰めシーンといえば、手の甲を上にしていることが多い。が、実際は、手の甲を下に、手のひらを上というスタイルが少なくないという。

 もっとも、格好をつけるためには、小指を返して手の甲を上にして切っている。が、それはやたらと痛いのだという。手のひらを上にしたほうが、比較的痛みが少なく、簡単に落ちるという。

 さて、映画では、小指には、大工道具のノミが当てられ、兄貴分らしき男が子分の小指に当てられたノミの上からトンカチでパンと叩いた。切り口からは、細い糸が宙に放たれたように血がぴゅーっと飛んだ。指は、1、2メートルほど前方に飛んで落ちた。あっと言う間の出来事である。指を切られた男は、うろたえることなく、きわめて冷静であった。そのシーンは、本当に切っているというのだから驚きである。

 その経緯は次のようなものだった。映画は総額800万円という低予算であることから、特撮もありえない。そこで安藤は、撮影前のある日、知り合いのヤクザに訊いてみた。

「この映画で小指を落とすシーンがあるのだけれども、誰か小指を落としたい奴はいないか」

 すると、自発的に小指1本30万円で引き受けるヤクザ者が手を挙げたのである。実は安藤は、撮影当日、撮影現場に医者も呼んでいた。たとえ指を切断したとしても、すぐに縫合すれば元通りくっつくということだった。ところが、指詰めシーンのあと、そのヤクザは、なんと、縫合を拒否したのである。