2004年、飼い主の夫のジェロームががんで死亡。4年前に愛娘を交通事故で亡くしていたこともあり、残された妻のサンドラは以降トラビスを一人息子のように溺愛し、毎日一緒に入浴し、同じベッドで抱き合って眠った。
トラビスもサンドラを慕っており、毎夜彼女の髪に丁寧にブラシをかけて、外出する前には互いに口づけを交わさなければ離れられなかったほどだという。一説には、この“甘やかし”が、後の悲劇を生む一因になったとも言われる。
そんなサンドラを公私ともに支えたのがチャーラ・ナッシュ(1953年生)である。彼女は娘を持つシングルマザーで一時期は住むところにも困る暮らしを送っていたが、ジェロームが死亡した翌年の2005年、知り合いの紹介でサンドラのレッカー会社に事務係として就職。彼女からアパートを無料で提供してもらった。
雇用主と雇われ人の関係ながら、2人はプライベートでも気が合う友人で、常々、食事を共にし冗談を言い合った。さらに、トラビスがナッシュによく懐いていたことも2人の間柄をより親密なものにさせていた。
「彼が…彼女を…食べ始めた…」
2009年2月16日も、いつもと変わらない1日になるはずだった。この日、ナッシュ(当時55歳)はサンドラ(同70歳)に電話で呼ばれ彼女の自宅を訪ねる。なんでもトラビス(同14歳)が車のキーを持ち出してしまったため、家に連れ戻すのを手伝ってほしいのだという。お安い御用と、ナッシュはトラビスを首尾よく屋内に入れ、お気に入りのおもちゃでトラビスの気を引いた。
その瞬間、突然、トラビスがナッシュに襲いかかった。悲鳴を上げるナッシュを助けるべく、サンドラはトラビスをシャベルで殴り、肉切り包丁で何度も刺したものの、トラビスは狂ったようにナッシュを襲い続け、その攻撃は12分間にも及んだ。
凶行を止められなかったサンドラは911に通報。電話を受けたナビゲーターは当初、受話器の向こうで聞こえる動物の雄叫びを冗談だと思ったそうだが、サンドラが「彼が…彼女を…食べ始めた…」と激しく嗚咽しながら話したことで事態の深刻さを察知し、すぐに警察と緊急医療班を出動させる。
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