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「忘れていたあの感覚」とどう向き合うべきか

 2011年、初ホームランのヒーローインタビューで「顔のデカイ丸です。この顔をもっと覚えてもらったら嬉しいです」と初々しく語った丸選手は、7年後に本当にデカイ選手になりました。目下35本塁打は筒香嘉智選手、ウラディミール・バレンティン選手を抑えてトップ、出塁率は驚異の.488(9月11日現在)です。あるメジャースカウトは「丸を欲しくないチームなどない」と言ったそうで、カープファンとしては誇らしく思うと同時に忘れていたあの感覚がザワザワと甦ります。川口が、江藤が、金本が、黒田が、新井が、大竹らが去って行ったFAの悪夢。

 FAとは長年活躍してくれた選手の当然の権利。なのに何故我々はFAにザワつくのでしょう。一説によると日本は封建制度の江戸時代から近代明治になる際、廃藩置県でスムーズに移行した為、忠義大事の封建精神がそのまま残りました。そのため所属チームを去る選手になんとなく反感を持つのだと言う人がいます(私です)。「育ててもらった恩を忘れて……」というわけですね。それが本当かどうかはともかく、国内同一リーグへのFA移籍にファンはナーバスになります。ことに出ていく一方のカープファンは。

新井さんと同じくカープファンも「進化」する

 しかし、それも時代とともに変わってきている気がしますね。FA導入から既に25年目。その間、カープファンにとっても悪いことばかりではありませんでした。人的補償で赤松真人選手、一岡竜司投手らが来てくれましたし、なんといっても黒田、新井奇跡の復帰がありました。仮に日本人が封建感覚を引きずっているにしても、人は進歩するもの、ポケモン風に言えば「進化」するのです。復帰によって「黒田」は「男気」に、「新井」は「新井さん」に進化しました。そして彼らが移籍前にカープにいたときよりもレベルアップした感動を与えてくれました。

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 我々「カープファン」もより熱く、しかし以前より穏やかにチームを愛するように進化しているように思えます。それは「カープ女子」に代表される進化かも知れません。私はオッサンですがそれでも「お前もカープ女子か?」と問われれば「Me too! 」と言ってみたくなります。

 新井さんが引退会見で言ったように今シーズンを嬉し涙で終わったとき、丸選手はどんな決断をするのか。どんな決断にせよファンとして穏やかに受け入れる準備をして欲しい、かつて悲しい涙のFA会見をした新井さんが、ファンにそう頼んでいるように思えてなりません。

 そして来るべき決断の時、丸選手はどのように進化するのでしょうか? 私はそれを楽しみに出来るようなカープファンに進化します。

移籍前にカープにいたときよりもレベルアップした感動を与えてくれた新井さん ©文藝春秋

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