猫の腎臓病治療薬の治験が成功し、今まさに薬事申請へと向かう宮﨑徹氏。しかしその道のりには、あのパンデミックに阻まれ、研究が「あと10年はかかる」と覚悟した絶望的な瞬間があった。開発研究のための資金援助が完全に止まってしまった、あの時の話だ。(全2回の2回目/はじめから読む

【年内には実用化へ?「死因1位」猫の腎臓病治療薬の全容】「AIM」とは何か|猫にはなぜ腎臓病が多い?|副作用・値段は?|愛猫家からの寄付が会社設立の契機に|小澤征爾からの一言で「医師の道に」【宮﨑徹】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年4月18日配信)

猫の腎臓病治療薬の開発は「細々とやっていた」

 東京大学医学部の教授として研究を続けていた宮﨑氏にとって、猫の腎臓病治療薬の開発は制度的に困難だった。医学部教授として獲得する研究費は基本、厚労省系のもので、その研究費を農林水産省管轄の動物薬の開発に表立って使うことは難しいという事情があり、応援してくれるいくつかの企業からの寄付金を頼りに「細々とやっていた」のが実態だった。

ADVERTISEMENT

 そこにコロナ禍が直撃し、企業からの寄付が完全に途絶えた。「一旦中断して、人間用のAIM研究が完成してから猫薬に転用するしかないか」。宮﨑氏がある媒体のインタビューでこの窮状を率直に語った日、事態は急転する。

最終的に1万件以上集まった寄付

 記事を読んだネット上の猫好きたちが、「私たちがなんとかする」と動き始めたのだ。そもそも宮﨑氏は、一般の方々からの寄付を募集していなかったのだが、誰かが「東大の『その他の寄付』欄にコメント付きで振り込めばいい」と調べ上げ、SNSで拡散した。

宮﨑徹氏

 一晩で何千件もの寄付が殺到し、最終的には1万数千件の支援が集まった。宮﨑氏があとから全てのコメントに目を通すと、そこには「自分の子は亡くなってしまったけれど、他の猫たちのために頑張ってください」という切実な声が溢れていた。

 そして宮﨑氏が言葉を失ったのは、ある一件の振込だった。

「小学生ぐらいの子が、おそらく1000円か2000円のお小遣いの中から、222円(にゃんにゃんにゃん)を振り込んでくれていたんです」

 その寄付を前に、宮﨑氏は当時の衝撃を「もうちょっと、言葉が出なかったですね」と振り返る。