AIの進歩などによって「常識」や「正解」が変化し、パラダイム・シフトが起きつつある。そんな激動の時代を生き抜くこれからのビジネスパーソンに必要なのは、「人文科学」の知見である。
そう指摘するのは、ベストセラー『人生の経営戦略』などの著者である山口周氏と、株式会社COTENのCEOであり、「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」MCの深井龍之介氏だ。なぜ、哲学や歴史を学ぶことが重要なのか?
ここでは2人の著書『人文知は武器になる』(文春新書)より一部を抜粋して、平和な社会の構築という観点から、歴史教育の重要性について語る対談をお届けする。(全3回の2回目/最初から読む)
◆◆◆
中世には存在しなかった世界的リスク
深井 もし歴史を勉強していながら、戦争を何度も繰り返しているのであれば、われわれは世界レベルで記憶障害を起こし続けているということになりますよね。記憶障害でないのであれば、最初から知らない、つまり歴史を学んでいないし、歴史から学んでいないということです。人間社会に存在する明らかな「傾向」のなかには、よいものもあれば、悪いもの、あえて繰り返す必要のないものもあります。
山口 いまの政治のリーダーでも、歴史を知らない人がかなり増えたことで、世界がかなり不安定な状況になっていると感じます。トランプ大統領が一期目のとき、当時の安倍晋三首相との会談で「シンゾー、日本は昔、ロシアと戦争したことがあるって聞いたけど、本当か?」と聞いてきたそうです。
安倍首相が「そうだよ。俺たちが勝った」と言ったら、「グレートだ!」といって、親指を立てたと。そんな話を安倍元首相から佐藤優さんは聞いたそうです。このエピソードからの学びは「なんだ、お前は日露戦争も知らないのか」とバカにしなかったからこそ、安倍さんはトランプ大統領とうまくやれた、ということなんですけれども、やっぱり、あの大国のリーダーが日露戦争を知らなかったっていうのは、ちょっとまずいと思うんです。
深井 僕たちがいま生きている世界のゲームルールでは、誰か一人が愚かな判断を下したら、世界に致命的なダメージを与える可能性があります。一番わかりやすい例は、核爆弾です。もしある国のトップが暴走しても、第三者がそれを抑止する手立てはなく、その国の制度や内部的な倫理に頼るしかない。それはすごい象徴的な現代っぽさだと思っています。核爆弾や大量破壊兵器がなかった中世では、一人の人間の愚かな判断が世界に大規模な被害を及ぼすことはできなかったので。
AIも、破壊的な使い方の抑止は、開発者や運用者の倫理に頼っている状況です。歴史から学べることがあるとすれば、それは「絶対に起こしてはいけないことを絶対に起こさないための、確率を下げるアクションを、いまこの瞬間やり続けること」の重要性です。つまり「可能性は低いけれど、絶対に起こしてはいけないこと」をどうやって防ぐか、どうやって確率をゼロに近づけるかということにリソースを割くことだと思っています。
いわば「工場での無事故運動」のような、地道だが本質的な取り組みを、核リスクやAIリスクの領域でやり続けることが求められている。しかし世界はまだここにリソースをそんなに割いていない。車の運転で言うところの「だろう運転」ではなく、「かもしれない運転」の姿勢が、大事だと思うんです。

