定時制高校の科学部の活躍を描き、NHKでのドラマ化も話題となった伊与原新さんの『宙わたる教室』。待望の第2弾となる『コズミック・ガール 宙わたる教室』が刊行された。
前作で東新宿高校・定時制科学部が「火星のクレーターの再現」に挑んでから6年後。顧問の藤竹は学校を辞め、科学部は消滅していた。エリート女子高から転入してきた2年生の佐那は“伝説の科学部”を復活させようと奔走する。
「前作では藤竹の企みによって科学部が出来ましたが、今回は生徒たちの手でゼロから科学部をスタートさせてみたかったんです」
宇宙や天体が大好きで、惑星科学者のカール・セーガンが推しの佐那だが、やる気が空回りして周囲から浮いてしまう。それでも、装置作りが得意な翔太、闘病生活が長く少し年上の理(おさむ)、11歳の時に中国から来日するも日本が嫌いな宇辰(ユーチェン)らが科学部に加わっていく。
「前作の刊行後から定時制の先生方や生徒たちとの交流が続いていて、定時制の現状について知る機会が増えました。今の定時制は年配の生徒はほとんどおらず、現役生が多いんです。経済的な理由や不登校、国籍など様々な事情を抱えた生徒の受け皿にもなっています。今は僕も、どんな生徒がいるか以前より分かっているし、出会ってきた生徒たちの顔も浮かぶ。それなら今回は、より現状に近い10代の生徒たちを登場させ、彼らがなぜ定時制に来たのか、それぞれの背景に焦点を当てようと決めました」
科学部は、「見せてやりたい子たちがいる」という理の提案でペットボトルロケットを作ることに。さらに、廃棄食材から抽出したでんぷんを燃料に使おうと、試行錯誤を繰り返す。
「これは、ブドウ糖を燃料にしてロケットの打ち上げに成功した兵庫県立洲本高校科学技術部をモデルにさせていただきました。最終的には約2メートルの本格的なロケットで高度135メートルまで打ちあげた、すごい実験なんです」
今回は科学部のメンバーが若いぶん、大人たちを巻き込んでいくところも読みどころだ。全日制に移りたいと思っている国語教師はしぶしぶ顧問に。科学部のあのOB、OGも登場。独自の“人脈”で科学部を応援する副校長に、謎の人物も……。定時制をめぐるある現状も背景となっている。
「定時制高校の数はどんどん減っています。その代わりに通信制や、単位制のチャレンジスクールを拡充させるということのようですが、多様な生徒を受け入れる場として定時制はまだまだ必要だというのが現場の先生方の感触なんです」
佐那たちは、高校生の科学コンテストで最優秀賞を獲って、アメリカで行われる国際科学コンテストに出場することを目標に掲げる。果たして、ロケットの開発は成功するのか。さらには、藤竹が消えた理由や、前作で描かれなかったある事実も明らかに――。
作中、ある生徒が「科学とはクリエイティブだ」と気づくシーンが印象的だ。
「科学は最初から正解に向かっていなければならないと考えられがちですが、 それは科学をやってきた者として実感とかけ離れています。誰が実験してもこうなるという『結果』はありますが、最初から皆が正解に向かって一直線に進んでいるわけでも、正解がわかっているわけでもない。理科の勉強や学校でやる実験と混同されているんですね。誰もやったことのないことに挑戦する、新たなものを作り出す科学的な活動はとてもクリエイティブです。そのことを、僕は小説に書き続けてきたつもりです」
いよはらしん/1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。2019年『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、25年『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞。近著に『翠雨の人』。

