9年間の地獄のような浪人生活を経て、ようやく医大の看護学科へ進学し、一時は関係が改善していたはずの母と娘。しかし、娘が親に内緒で持っていた「1台のスマートフォン」が発覚した瞬間、悲劇の歯車は決定的に狂い始めた。暴走する教育虐待の根底にあったのは、加害者である母自身も逃れられなかった「世代の呪縛」だった。(全2回の2回目)
(初出:「文藝春秋PLUS」2026年5月3日配信)
関係改善を打ち砕いた「スマホ破壊事件」
助産師学校の試験に不合格となった翌日、あかりさん(仮名)は就寝中の母の首を刺した。文藝春秋PLUSの番組「+BOOK TALK」に出演したノンフィクション作家・齊藤彩氏は、この暗転のきっかけの一つとして、殺害の少し前に起きた「スマホ破壊事件」を挙げる。
あかりさんは当時、母と連絡を取るための「ガラケー」とは別に、自由に使うための「スマートフォン」を秘密裏に所有していた。ところがある日、その存在が母に発覚する。「勉強に専念しているはずなのに、なんでこんな娯楽用の端末を持っているんだ」と怒った母は、スマホを取り上げて叩き壊した。
憎しみがキャパシティを超えた瞬間
長年にわたる暴言や束縛が積み重なっていた中で、なぜこの「スマホ破壊」が決定的だったのか。齊藤氏は、それを「自分の心が壊れてしまったタイミング」と表現する。「今まで受け入れていた塵がキャパシティに達してしまった」ことで、憎しみが閾値を越えてしまった。
しかし、この事件を読み解く上でさらに注目すべきは、加害者である母・妙子さん(仮名)自身も抱えていた「呪縛」の正体だ。
