『12人の優しい日本人』とほぼ同時に三谷監督の映画『THE 有頂天ホテル』(2006年)への出演も決まった。ミュージカルではないストレートプレイ(歌わない演劇)の舞台に立つのも初めてなら、映像の仕事もそれまでCMにはちらほら出演していたものの、本格的な出演は三谷作品が初めてとなる。ちょうど現在の所属事務所のキューブに移籍したタイミングでもあり、これを境にドラマや映画の仕事が増え、知名度も上がっていった。

「憑依するタイプ。役に入ると…」

 三谷作品にはこのあともたびたび出演している。舞台『コンフィダント・絆』(2007年)では、ゴッホなど画家たちのモデルを務めるダンスホールの女給を演じた。これは、『12人の優しい日本人』で堀内は陪審員に選ばれて戸惑う中年の主婦という役どころだったのを、三谷が「おばさん役をやらせたのはかわいそうだから」と言って、つくってくれた役だという(「ENCOUNT」2025年2月20日配信)。

 当時まだ30代の堀内に“おばさん役”はかわいそうと感じたのは自然である。ただ、三谷が役をつくったのは、お詫びの意味でという以上に、彼女がまったく違う役を演じるのを見たいというのがあったのではないか。それは、前出の対談での《堀内さんってかなり役が憑依するタイプ。(中略)役に入ると表情も顔も変わってくる。(中略)だからまたいろんな役をやらせたくなる。まだまだ引き出しを持っている人です》という三谷の発言からも裏づけられる。

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脚本家の三谷幸喜氏 ©文藝春秋

 堀内がたくさんの引き出しを持っているのは、高校の演劇科でダンスの先生から「毎日登校中に電車の中で前の人を観察しろ」と言われたおかげだ。彼女はこの教えを守り、電車で人を見ては、そのあと何をするか、どんな生活を送っているかを想像するということを日々やってきた。

 その後にいたっても、人を観察するのが癖になり、特徴的な人と出会うと、いつか役作りで使おうと自分のなかに取っておいたりしているという。《そうやって溜めてきたものの中から引っ張ってきて、その中にスポッと飛び込むイメージです》と本人は説明している(『CUT』2021年2月号)。NHKのコメディー番組『サラリーマンNEO』では、コントでたくさんのキャラクターを演じ、それもよい訓練になったという。