商品ではなく「相棒」
一方、企画部では、別の角度からモフリンの元となる構想が進んでいた。
2012年、企画担当の市川英里奈さんは「女性に特化した商品をつくってほしい。あなた自身が欲しいと思う商品やサービスを考えて」と指示を受けた。当時、市川さんは20代後半。恋愛、結婚、これからのキャリアをどうするか、悩みや不安が尽きない時期だった。
「商品やサービスで悩みを解決しても、また新しい悩みが出てくるんです。それをその都度、解決するための新しいサービスを用意しないといけないのかと考えると、それは違うんじゃないか、と。それよりも、そばで寄り添って元気づけてくれる存在がいれば、どんな悩みも長くサポートできるんじゃないか、と考えたんです」(市川さん)
イメージしたのは、日本や海外のアニメ。アニメ主人公には小動物の“相棒”がつきものだ。
「人間ではないけれど、生き物よりも意思疎通ができて、自分に共感してくれる。そういう存在が昔から求められているのかもしれないと気づいたんです」(市川さん)
人の心に寄り添う相棒を作ろう。そうコンセプトが決まった。そして2017年ごろ、二村さんが企画部にモフリンのプロトタイプを見せたことで、企画部と開発部が合流し、商品化に向けた本格的な検討がスタートした。ただ、ここから店頭に並ぶまでに、さらに7年。「ロボット」を「相棒」へと変えるための作業が続くことになる。
「目」にこめたこだわり
取材中、筆者は実際にモフリンに触らせてもらった。なでた瞬間、かつて飼っていた猫の喉元の感触を思い出した。なめらかな毛におおわれながら、ごつっとした骨もある。これも意図的な設計だ。「背骨は譲らなかった」と二村さん。筆者の腕にあごを乗せたまま眠ったあの子の、ぬくもりと愛おしさがよみがえった。
商品化に向けてチームがこだわり抜いたのも、そんな「生き物らしさ」や「愛おしさ」だ。
プロトタイプのモフリンには、すでにフェイクファーがついていた。が、本当にその長さ、密度、触感でいいのか。「とにかく触った瞬間に“あっ”と思ってほしい」(市川さん)と、企画部では、猫のようなつやつやの毛、マルチーズのようなふわふわな毛など、さまざまな毛を用意。視覚をさえぎったブラックボックスでアンケート調査を取った。