1ページ目から読む
2/2ページ目

韓国で注目されているテーマは「老い」より「女性性」

 日本では、この作品について「老い」を語った評が多かったが、韓国ではどちらかというと「女性性」に焦点が注がれている。

 韓国では2年前に出版された、社会から求められる女性像に縛られた30代の主婦を主人公とした『82年生まれのキム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著・ミンウム社)がロングセラーになるなど、ここ2、3年の間に女性としての在り方への関心が急速に目に見える形で現われている。

© Getty

 40代、独身で、会社では管理職も務める知り合い(女性)は言う。

ADVERTISEMENT

「女性の進出とか言われて、ずいぶん女性も配慮されるような雰囲気にはなってきましたけど、まだ韓国の女性は、女性だからこうでなければならないというか、たとえば、結婚して子供を持つべきとか、弱くあるべきとか、社会が期待する女性像などに縛られて、実際そう思っている女性が多いと思いますね。私自身、結婚する気がないわけではないですが、結婚しても今までのような婚家に束縛される関わり方は嫌だし、社内でもこれ以上出世したくない。もっと上にいけば男性社員からいじめにあいますから。

 それでも、まだ一部ですけど、最近では♯MeToo運動のように泣き寝入りしないで被害を訴えたり、何かをする自由やしない自由を声に出すようになってきています。

 今は韓国の女性にとって大事なターニングポイントになっていると思います」

社会問題となった、“空き巣症候群”世代の女性がターゲット

 トマト出版社も出版にあたり、ターゲットは女性に置いている。編集者、鄭知恵さんの話。

「コアターゲットは40~60代の女性で、次がその子供世代の20~30代の女性と考えています。

©iStock

 特に、50~60代は主人公の桃子さんと近い世代で、同じような人生を生きてきたというか、共感するところが大きいのではないでしょうか。結婚して、主婦となり、夫には内助を尽くして、子供を育てて、良き妻、良き母となることが求められた。韓国では子供が巣立った後の”空き巣症候群”が一時話題になりましたが、まさにその世代で、この作品から癒やしをもらい、勇気を分かち合えるのではないかと思っています。

 桃子さんの娘世代に当たる20~30代にとっても、母親世代への共感や将来の自分を投影できる作品で、主人公の桃子さんのようにあらゆる世代の女性が担っている良き母、良き娘という女性像などを取り払って、もう少し早く自由や自立を探せる勇気をもらえるのではないかと思っています」

 さっそく読んだという60代の知り合いはこんな感想を教えてくれた。

「まさに、私たち世代の物語。私はまだ夫が健在だけど、もう少し自立を楽しむ気持ちがないといけないわね。『まだまだいける』と思うこと自体が大変なことだけど、今の若い世代は私たちと違ってもっと自由でいいと思う。でも、そんなことを言うと、娘からは、『女性を理想の女性像に縛っているのはお母さんの世代』とか言われちゃうから、なかなか変わるのは難しいわ」

『おらおらでひとりいぐも』の韓国語版が発売されてからほぼ2週間。韓国の大手オンラインショップ書籍分野の小説部門で10位と滑り出しは好調だ

ソウル市内の書店で平積みされる「おらおらでひとりいぐも」