「もう駄目。精神科病院に連れていって!」
埼玉県が生活困窮者支援策のアスポート事業を始めた頃から大森さんは関わる。元地方公務員で生活保護のケースワーカーを経験していた。十数年前に40代で退職後、住宅支援、就労支援、学習支援と移り、貧困対策の現場を見てきたベテランだ。
アスポートの通常業務は学習支援が中心だが、大森さんは理奈さんを公的支援につなぐしか道はないと考え、あらかじめ市役所に相談していた。小部屋に通され、机を挟んで、市の職員2人と、理奈さん、大森さん、小川さんの3人が向き合う。理奈さんがぽつりぽつりと事情を説明した。
「行く所がなくて……」
肩を落とす理奈さんに職員は「大丈夫。何とかなるよ」と声をかけた。まずは住まいが必要だ。職員は当面の生活場所として「無料低額宿泊所」と呼ばれる寮を提案した。自分で空き状況を尋ねるように促され、理奈さんが電話すると、幸い、1部屋空きがあり、その日のうちに入居できた。
生活保護の受給も決まり、理奈さんは寮から定時制高校に通った。最終学年の4年生。卒業を目指すが空回りし、精神状態が不安定になっていく。当時の心境をこう話す。
「いろいろありすぎて、気持ちが緩んだのかな」
発達障害があって人の心を理解しづらい面があり、恋愛など人間関係に悩んで高校を休みがちに。秋口には授業が頭に入らなくなった。次第に先々への不安が膨らんだ。寮では女性ばかり数人が暮らしていて、狭いがそれぞれ個室だ。朝食が終わる頃、寮長の女性が出勤してくる。みんなが食べ終わった後、理奈さんは食堂に一人で残り、考え込んでいた。そして思わぬ行動に出た。
朝、寮長の女性が出勤してきた時、理奈さんは食堂の床にぺたんと座り込み、ぼうぜんとしていた。はさみの刃を腕に当ててリストカットしている。腕を切りながら声を上げた。
「もう駄目。精神科病院に連れていって!」
