韓国の“奇妙な習慣”
ヒディンクは大会1年半前という段階でやってきた。1988年に自国のクラブPSVアイントホーフェンを率いて欧州王者に、さらに1998年のフランスワールドカップでオランダを率いてベスト4、その後スペインのレアル・マドリードでも指揮を執ったという実績を引っ提げて。
ヒディンクには、旧来の伝統の破壊者の役割が求められていた。当初は「学閥・地縁に頼らない選手選抜」が最大のテーマだった。
就任直後から、ヒディンクにはこの国の習慣が奇妙なものに映った。チームにはキャプテンのホン・ミョンボより年上のキム・テヨンというDFがいたが、選手同士のミーティングでは彼が席を外した。聞くと、「キャプテンより年上がいると、発言がしにくい」という理由からだったという。
「一歩前に出てパスを受けろ」通訳を介した長い一文
またヒディンクは当時、韓国人のチーム通訳の様子にぎこちないものを感じていた。あるとき、当時30歳だった韓国語―英語通訳のチョン・ハンジンに対し、伝えた。
「ホン・ミョンボ、一歩前に出てパスを受けろ」
英語で言えば「Step up and take the ball」などと簡潔に言える表現だ。
ところが、通訳を介するとどうもこの一文が長くなっている。ホン・ミョンボより1歳年下のチョン・ハンジンは、「ホン・ミョンボ先輩様、ボールをお受けになる前に一歩前に出てくださいませ」といった感じで訳していたのだ。
ヒディンクはこの後、通訳を呼んで「いったい何を訳しているんだ」と怒鳴りつけたのだという。
こういった出来事が重なるや、ヒディンクはミーティングを通じてチーム全体に通告した。「敬語使用禁止」。
たった1秒が勝負を左右するピッチでは活発な意思疎通が行われるべき。しかし、「韓国ではある点がこれを邪魔している」。ある点とは韓国特有の上下関係、特に敬語文化だ。