『シラート』
まず紹介するのは、ロードムービー。しかも、かなり尖った内容だ。
舞台はモロッコ。失踪した娘を探して幼い息子を連れて旅する主人公の彷徨が描かれる。娘は砂漠で開催される野外レイブパーティに参加したと思われることから、主人公は会場を転々とする。そして、ヒッピー風のグループに先導されながら、砂漠や山岳地帯の荒れ果てた道を行く――。
物語は大きく動くわけではない。が、とにかく全編がスリリング。まず、装備のままならない車で道なき道を進む困難に引きつけられる。落ちたら終わりな崖道は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のようであり、必死に渡河をしようとする様はウィリアム・フリードキン版『恐怖の報酬』を思い起こさせる。
それぞれのピンチを完璧な構図で捉える撮影も抜群。特に中盤過ぎに起きる物語の分岐点は、カットを割らずに縦の構図で奥行きが見えるショットで切り取っているのが見事。ある対象が遠ざかり消えていく様子を主人公と同じ視線で捉えることができるため、油断して観ていたら「あっ、えっ、わっ、わー!」という主人公の衝撃が同時に重なり、その呆然を完全に共有できる。
アカデミー賞にノミネートされた音響も出色。冒頭のレイブシーンで流れる重低音や、難所を進む車のタイヤやエンジンが、主人公の不安な心情とシンクロ。その不穏さをヒタヒタと高めていく。
そして、圧巻の音響が終盤に待ち受ける。それは、ほんの瞬間から始まる。だが、その「音」が耳に入った途端、なぜこの映画が小規模な外国語映画にもかかわらずアカデミー賞の音響賞にノミネートされたのかハッキリ理解できた。
モロッコの国境地帯の事情を把握していると「あ、そういうことか!」となるが、知らなくとも「とんでもない地獄巡りの結末」として十分に衝撃的だ。その音も映像も、劇場でなければ味わえない。
『シラート』
監督:オリベル・ラシェ/出演:セルジ・ロペス、ブルーノ・ヌニェス・アルホナ/2025年/スペイン・フランス合作/115分/配給:トランスフォーマー/© 2025 LOS DESERTORES FILMS, A.I.E., TELEFÓNICA AUDIOVISUAL DIGITAL, S.L.U.,FILMES DA ERMIDA, S.L., EL DESEO DA, S.L.U., URI FILMS, S.L.,4A4 PRODUCTIONS/6月5日(金)よりロードショー
