選挙・政治を題材にした意外な理由

――三田さんは毎回、東大受験、投資と、漫画であまり描かれてこなかった題材を選ばれます。今回はなぜ選挙だったのでしょうか。

三田 この作品の立ち上げは非常に特殊で、僕にとってもレアなケースです。作画の魚戸おさむさんとは40年近い付き合いで、2023年の暮れに彼から「原作を書いてくれないか」と依頼がありました。普段は題材から入るんですが、今回は「魚戸さんの力を最大限活かせる作品」を考えるところからのスタートでした。

 魚戸さんの最大の魅力は、田舎の風景を描かせると上手いこと。おそらく日本一、日本一イコール世界一なんです。田んぼ、川、山のような風景を作品の中にふんだんに盛り込めたら、魚戸さんの個性を一番活かせると思いました。

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安野 それは衝撃ですね。ここ数年、選挙が盛り上がっていたから時事的な発想かなと邪推していたんですが、まさか作画の先生の力から始まっていたとは。

三田 そして、田舎でドラマチックなものって何だろうと考えたんです。物語をつくる上では、対立を描きたい。田舎でわかりやすい対立といえば、やっぱり議会や行政。「したい」「いやダメだ」とお互いの主張がぶつかり合う。そこに、市議会議員にまったくふさわしくないであろう若者が飛び込んでいく。そういう設計にすれば作品として成立するかなと。

引きこもりを描くため「プロットを全部破棄」

――取材を進める中で、当初の構想から変わった部分はありましたか。

三田 大きく変わりました。最初にざっくりしたプロットを用意して取材に行ったら、「これ全然違う」となって、1回全部破棄して作り直したんです。監修の若新雄純さんから最初に言われて強烈だったのが、「引きこもりはまず部屋から出るのが大変だから」と。

 

 最初のプロットでは主人公がガラッとドアを開けて出てきちゃっていたんですが、「部屋は出られない、人の目も見られない」と言われて。目を見られなかったら選挙に出られないじゃないかと。でもそこをしっかり描かないと、当事者の方々からダメ出しが来るだろうなと思い、全部組み直しました。将来的なリアリティのためにリスクを取りました。

安野 そのおかげで、家族や身近な人に「出る」と言った時の反応もすごくリアルに描かれていますよね。「いいね」と言う人もいれば、「何を言ってるんだ」という反応もある。出馬経験者としても、あの逡巡は本物だなと感じました。

 

三田 今はアナログでペン画を描ける作家さんが本当に少なくなっています。魚戸さんの技術を作品として残していくことも、漫画文化にとって一つの価値だと思っています。ぜひ田舎の描写の素晴らしさも楽しんでいただければ。

安野 本当に、田んぼの中にいる人に手を振って近寄っていくシーンとか、おじいちゃんおばあちゃんの表情とか、情感が豊かで素晴らしいです。『ドラゴン桜』で東大に受かった僕としては、『魔界の議場』を読んで市議会議員になる人が今後どんどん出てきてもおかしくないなと思います。

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