「ポスト石破レース」の号砲が鳴った。初の女性総理であれ、最年少首相であれ、次のリーダーが避けられないものが、デジタル時代のポピュリズムである。7月の参議院選挙では右派ポピュリズム政党の参政党が大躍進したが、その原動力はSNSや動画を駆使したデジタル戦略だ。テクノロジー時代に、民主主義はどこへ向かうのか。

 

「文藝春秋PLUS」に掲載された、オードリー・タン氏(台湾の初代デジタル発展大臣)のインタビュー冒頭を紹介します。(聞き手:ジャーナリスト 杉本りうこ)

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極論が広がる理由はリポストにある

 ――日本では今夏、SNSを巧みに使った右派ポピュリズム政党が躍進しました。ネット空間は民主主義を不安定にしているのでしょうか。

 オードリー 参院選の投開票が行われた直後、私はちょうどイベント登壇のために日本にいました。旧知の安野貴博さんの政党(チームみらい)が議席を得たことや、「日本人ファースト」を掲げる政党の躍進についてもリアルタイムで見ていました。

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 SNSは確かに極論を増幅させています。その作用はAI(人工知能)を使ったシミュレーションでも明らかです。オランダ・アムステルダム大学の研究者2人による論文「我々はソーシャルメディアを修復できるか?」は、AIを使ってSNS空間を再現しました。プログラムで作った機械のユーザーたちに人間のように投稿とフォロー、他者の投稿のリポスト(再投稿)をさせてみたところ、過激な投稿をするユーザーほど多くのリポストを獲得しました。

オードリー・タン氏。8月に開かれたビジネスカンファレンス、WebX2025への登壇で来日した ©文藝春秋

 その結果、現実のSNSと同様に極論が拡散されました。偏ったアルゴリズムによる介入をしなくても、SNSでは自然発生的に極論が広がる根本的な機能不全があると明らかになったのです。

 ――SNSでは不可避的に極論が広がる。無力感を覚えてしまいます。

 オードリー 極論が広がる理由は、リポストにあります。そもそも人はなぜリポストしたがるのか。リポストは人間に、社会学で言うところのボンディング・キャピタル(共通の背景や価値観を持つ人の間の強い結びつき)を「報酬」として与えるからです。リポストは同じ属性の人々に対して「私もあなたの仲間です」と証明する行為であり、リポストによって強い結びつきが体感できます。

 研究では、極論の拡散を改善できそうな介入がいくつか試されました。投稿を時系列で淡々と表示するとか、リポストが多い投稿は逆に下位に表示するとか。その中で唯一効果を発揮したのが、お互いの理解や建設的な議論を促し、異なる意見の間にブリッジング(橋渡し)をする投稿を優先して表示することでした。

 ――では現実のSNSにも、橋渡し機能を追加すれば極論の拡散とポピュリズムの拡大に歯止めがかけられる?