中国のEV(電気自動車)は世界でも最先端となっている。では、その技術の要には何があるのか。ジャーナリストの井上久男氏がレポートする。

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「ギガキャスト」という新技術

「日本人の記者を受け入れるのは、おそらく初めてだと思います」

 こう語るのは、世界最大の鋳造機メーカーと言われるLKテクノロジーホールディングス(本社・香港。以下、LK)の劉卓銘CEO(最高経営責任者)だ。同社が世界的に注目を浴びたのは、テスラが上海工場で製造している「モデルY」開発に大きく貢献したからだ。

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 開発の重要なカギは車体の軽量化だった。ユーザーの利便性を考えれば、EVは1回のフル充電でどれだけ長く走れるかが重要。だが、航続距離を延ばそうとすれば、消費電力を抑えるために車体の軽量化が必須となる。LKは独自技術でモデルYの軽量化を実現したのである。

 その技術は「ギガキャスト」、あるいは「ギガプレス」と呼ばれる。これまで車体の床部分は、鉄を鋳造した数百ものプレス部品を溶接する工法が主流だった。ところがギガキャストは、鉄より軽いアルミ合金を溶かして、巨大な金型で一体成型してしまう。すると数百の部品で構成されていた床部分が、たったの2、3パーツでできてしまう。工程数が減り、軽量化できる。さらに溶接ロボットが不要となり、設備投資も節約できる。その後、EVメーカーでギガキャスト導入が進んでいるのも、頷ける道理だ。

7000トン級のギガキャスト機で一体成型された部品(筆者撮影)

 テスラが世界に先駆けて導入した技術を開発したLKは、1979年に香港で劉CEOの父である劉相尚氏が創業した。最初は玩具や日用品などを作る小型鋳造機メーカーだったが、着実に業容を拡大してきた。

 転機は2008年。イタリアの大型鋳造機メーカー、イドラを買収したのだ。当時草創期にあったEVだけでなく、しばらくすると5G通信の基地局向けにアルミ合金で鋳造した部品が求められるようになった。グローバルに事業を拡大し、今では米国など世界11カ国に製造拠点を持つ。日本でも神戸市内に工場がある。今や世界最大の鋳造機メーカーと言われるまでに成長した。