たとえば、部下に「なぜもっときちんと仕事をしないんだ」と腹が立つとき。部下にも非があるかもしれないが、部下に怒っているようで、実はそれは「きちんとしなければならない」という「must」への怒りなのかもしれない。
「must」に縛られ我慢している苦しさが、のびのびしている部下への嫉妬になって怒っているのだ。「いい人」や「頑張りやさん」ほど、理不尽なことを我慢して、多くの怒りを抱えている。
私も、相手の都合のよいように扱われても文句を言えず、怒りが積み重なっていった。
怒りを上手に解放することが豊かな人生に
40代のあるとき。私は我慢の限界を迎えたのか、当時の上司の言動を看過できず、初めて怒りを爆発させた。それはまさに爆発だったので、どう転ぶかわからない、おすすめできない怒り方だった。
しかし、私の場合は結果的にその怒りが自分を解放するきっかけとなった。それからは、「都合のよいように扱われる」ことには、適切に怒りの感情を働かせて、「NO」と言えるようになったのだ。
もちろん、納得がいかなくても周囲に従うことが今でもある。そういうときも、ただ我慢するのではなく、「これぐらいは譲ったほうが楽だな」とか、「この組織にいたいので今回は人間関係を円滑にするほうを選んでおこう」と、自分のための戦略に基づいた選択であることを、決断前に確認する。
必要なときには怒りの感情を働かせて、人と対等な関係を築く。その結果、自分の「want」の声を大切にできるようになり、最近はそこまで腹が立たなくなった。怒りを上手に解放することは、豊かな人生につながるのだ。
精神科医・医学博士、公益財団法人がん研究会有明病院腫瘍精神科部長
1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター( 現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん専門の精神科医として活動し、対話した患者・家族は5000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)、『他人の期待に応えない』(SB新書)、『不安を味方にして生きる』(NHK出版)など多数。
