「なんの取材をしてくるんだ?」

 廊下に居合わせた別の番組のスタッフまで、抜き足差し足、恐る恐る通り過ぎていくほどでした。番組スタッフが制作した取材映像が気に入らないと、生本番中でも露骨に機嫌が悪くなり、ボールペンで机をガンガンたたき出す。その様子を見ているだけで隣りに座っているアシスタントの私は震え上がりました。

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「おい、サワコちゃん(当時はボスにそう呼ばれておりました)。明日、取材に行くそうだが、なんの取材をしてくるんだ?」

 深夜の番組が終わって控え室に戻ってくると、ボスから声をかけられました。

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「えーと、なんか滋賀県のほうで、新しい繊維を作っているっていう取材をする……みたいなんですが……」

 当日のノルマだけで頭がいっぱいだった私は、まだ翌日の取材についてろくに理解しておりませんでした。いい加減な答え方をしたところ、たちまちボスの形相が変わりました。

「出て行け!」

「取材の内容もろくにわからないで行く気なのか。どういうつもりだ! 出て行け!」

 オタオタ、ヨロヨロ。出て行けと言われても……。半泣きになりながら控え室をあとにして、廊下で仲間のディレクター君たちになぐさめられる始末。

 家に帰れば父に怒鳴られ、仕事場ではボスに怒鳴られ、「出て行け!」と。こんな人生は嫌だ。早く優しい王子様は現れないのか。もう嫌だ! 恥ずかしながら、しょっちゅう泣いて、しょっちゅう仕事仲間になぐさめられるという日々でした。

 私だけではありません。厳しいボスだったので、プロデューサーもディレクターもアシスタントディレクターも、もれなく怒鳴られ、叱られ、「出て行け!」と言われ続けておりました。

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阿川 佐和子

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2026年5月20日 発売

次の記事に続く 「憂さ晴らしだ。キムチ鍋、食べに行こうよ」気がつけば傷をなめ合う仲間は“年下ばかり”…阿川さんがいくつになっても「年下から慕われる」理由