――2016年に、庵野秀明監督が主催するオムニバス短編アニメ作品群『日本アニメ(ーター)見本市』の劇場公開イベントで「EXTRA」(番外)枠で上映された『機動警察パトレイバー REBOOT』があります。

出渕 アニメをやろうと盛り上がったところに、株式会社カラーの副社長の緒方智幸さんが「『見本市』で1本やりませんか?」と声をかけてくれたんです。しばらくしたら「『パトレイバー』でできませんか?」って。ちょうどその頃、HEADGEARも新体制で、やれそうな空気ができてたんですよね。そういう意味ではパイロットフィルム的な役割も果たしてくれた気がします。

――新生HEADGEARの最初の『パトレイバー』ですね。

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「特車二課」の制服は健在 © HEADGEAR / 機動警察パトレイバー EZY製作委員会

出渕 新体制ができたところで、方向性を見るためには非常にいいタイミングだったんですよ。その時、吉浦康裕監督が『パトレイバー』の大ファンだったらしく手を挙げてくれました。制作するにあたっては、庵野(秀明)くんからの条件がひとつだけあって「ゆうきまさみさんのキャラでやってほしい」って。あと、この『REBOOT』は林原めぐみさんの隊長役の雰囲気がすげえよかったんですよ。それもあって『EZY』の佐伯貴美香第二小隊隊長は、完全に決め打ちのキャスティングでした。

――30年前と比べて、AIなども進化していて、インターネットも当たり前の世界になっています。『EZY』はさらに10年後ということで、設定面でテクノロジーの進化も意識されましたか。

出渕 じつは、あまりしてないです。なぜかというとこの作品は、常に「10年後という設定で現代を描いてる」から。以前の『パトレイバー』が描いたのも当時の現代です。それに10年後を描くのって危険なんですよ、すぐ来ちゃって(笑)。通信はこうだとか、AIはこうだとか、近未来は下手にシミュレーションしてやるもんじゃない。やると結果イタいことになる可能性が高い。最初、企画がスタートした時、伊藤さんから、AIをテーマにしようって提案もあったんですが、10年近く経った今、やらなくてよかったと思っています。技術は加速度的に更新が早くなってるから。特に昨今のAIの普及のスピードとかね。もしやってたら、現在の目で見てすでに「古くさい」近未来になっている、そういう危険性もあったんじゃないかな。

――そもそも『パトレイバー』は、近未来SFというジャンルだけで括れないですよね。

出渕 いろんなジャンルを内包できる器だと思うんですよ。それこそ「SFだよね」っていう話だって作れるし、ファンタジーもホラーもミステリもスラップスティックだってできる。そういう稀有なフォーマットの作品だと思うんですよね。

――「File2」以降も含め、『EZY』が、どんな展開なのか少しだけお聞かせください。

出渕 公開前だけど話せることで言うと、夏に公開になる5話は伊藤さんから「雪のロンド」みたいな話にしてと言われて、幻想的な話になっているし、4話はドタバタのスラップスティック。先日公開した、3話は映画の撮影現場の話だけれど、絵コンテを描いた樋口真嗣監督は本職の実写監督なので、「実際の現場はこうですよ」って写真などをコンテに貼ってくれるし、実際現場を知ってるしで、頼んでよかったです。ただ彼も少し暴走して、エピローグに映画の予告編がつくんですけど、これがこちらの意図を逸脱して押井映画のパロディになっている。もちろん押井さんの承諾を取りましたよ。 結果「シンちゃんがやりたいっていうなら、いいよ」って快諾していただきました。だからエンディングのクレジットには、ちゃんと「予告編承諾・押井守」って、初めて聞くようなクレジットが入ってたりします(笑)。

――シリーズ全体の流れですが、上映会の時に伊藤さんが「『アーリーデイズ』から『劇場版』へ流れる別の時間軸を統合」とコメントを出されました。

©文藝春秋

出渕 あ、それでいうと同じ世界線と言われている劇場版の『1』と『2』は厳密にはつながってないと僕は思ってるんですよ。理由は2つあって、まず『劇場版2』は、『1』であったバビロン・プロジェクトがなかった世界と解釈しないと、東京湾にベイブリッジがかかっているのおかしいでしょ。もうひとつは、『アーリーデイズ』の時、前後編でクーデター話の「二課の一番長い日」をやってるけれど、『劇場版2』は翌年の話だから、さすがに2年連続でクーデターが起きるのは危機管理としてどうなんだという(笑)。だから、あれは別の世界線って考え方ができる。伊藤さんのコメントは、ゆるやかにでもそういういくつもパラレルに分かれている世界線をひとつにまとめられないか、ってことなのかな。『EZY』第2話もTVシリーズの延長線だから、『劇場版』の零式が妄想でも出てくるってことはどっかでつながってるんですよ、たぶん(笑)。

――『EZY』の続きも気になります。

出渕 続きはいちおう準備していて、シナリオもできてはいるんですよ。『EZY』の興行収入いかんで実現するかしないかが左右されますから、ぜひ劇場に足を運んでくださいね。

「週刊文春エンタ+ 特集『機動警察パトレイバー』には、出渕裕監督と押井守氏の強烈な対談や豪華キャストインタビューなどが掲載されている。

『機動警察パトレイバー』 寿司屋の後藤

伊藤 和典 ,ゆうきまさみ

文藝春秋

2026年6月25日 発売

次の記事に続く 「機動警察パトレイバー EZY」でシリーズ33年ぶりに脚本を担当した伊藤和典が語る“パトレイバーの条件”「ユーモアと倫理と、もう1つは…」