長大シリーズはおわらない!?

細谷 個人的に、ずっと読み続けている長いシリーズと言えば、ちょっと文庫書下ろしからは外れますけど、夢枕獏さんです。『キマイラ』シリーズ。今年、完結編だという『キマイラ聖獣変』が出ました。まだ、そこに至るまでのストーリーは続くそうですが。

 若い頃は、いつまでも終わらない物語を読みたかった。でも年を取ると、ちゃんと終わる物語が読みたくなる。

昼間 コミックにも多いですけど、長期シリーズになると途中で停滞というか、中だるみするものがありますね。できればその物語が輝いたままで完結するのが理想ですが、じゃあ適正なのが何巻かというのは難しい。

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野沢 うちの棚で言うと一段五〇冊まで並べられるんですが、ひとつのシリーズを五〇冊並べちゃうと、お客さんもちょっと手が出ないかもしれない。

細谷 特殊な例としては、井原忠政さんの戦国小説は、歴史に沿っているので終わりが見えるのです。

『三河雑兵心得』は、どんなに長かろうと、大坂の夏の陣で終わるはず(笑)。今、関ヶ原まで来ています。文春文庫で新しく始まった『真田武士心得』は、実在の人物が主人公ですから、やはり着地点は分かっている。そういう意味では、安心して読めますよね。

昼間 私は、大の風野真知雄ファンです。風野さんは今、文春文庫から『耳袋秘帖』シリーズを出されていますが、もともとはだいわ文庫でやっていらっしゃいました。最初に出た二〇〇七年当時、私、大宮の駅なかの書店で店長をやっておりまして『耳袋秘帖』をメチャクチャ売ったんです。そうしたら、なんと風野さんがお店に挨拶に来てくださった。ごはんもご一緒した時に風野さんが「シリーズで、人物の名前を考えるのが大変なんですよね」とおっしゃったので、私も若気の至りで「じゃあ僕の名前を使ってくださいよ」と申し上げたら、『両国大相撲殺人事件』に「昼間匠」という橋同心役で出してもらいました。

野沢 それって嬉しいですよね。私は、前に勤めていた書店で岡本さとるさんとお話しする機会があって、「そのうち名前を使うね」と言われていましたら『妻恋日記』に、「野沢屋の娘、お香代が婿養子を取った」という話が。

細谷 お二人とも時代小説に登場されていたとは(笑)。岡本さとるさんといえば『仕立屋お竜』。ヒロインのチャンバラと人情が、たっぷりと楽しめます。

昼間匠氏

徹底した読者ファーストの未来は

野沢 坂岡真さんの『鬼役』は、一巻目の時から長く売らせていただいておりますけど、坂岡先生が「読者から、鬼役がどこでどう動いているのか分からないと言われたから、江戸城の地図を付けたんだよね」とおっしゃったのを思い出します。今では、時代ものに地図が載ることが珍しくないと思うのですけど、やはり読者さんのご希望をくみ取って工夫されているわけですね。

昼間 アイデアと工夫という言葉、今日は何度も出ましたね。作家の経歴を見ると、テレビの脚本家だった方も多いですね。一時間の番組で楽しませるみたいな工夫と努力を、文庫一冊でやってらっしゃるのかな。

細谷 今を生きている自分が、書店に行って金を払って買って新刊を読む、というのが喜びなわけですよ。だって世の中には七回生まれ変わっても読み切れない本があるのに、なぜ新刊を買うかと言ったら、生まれたばかりの新しい本を読みたいから。そういうところはあると思います。あと、よく時代小説は古びないなんて言うけれど、古びます。書いてある価値観が現代とズレていると、すごく古臭く感じることはある。

 今がんがん書いている作家は、読者から飽きられないようにうまく書いています。

野沢 だから、読みやすくて入っていきやすいんですね。時々、お店の平台や棚をじーっと眺めているお客さんがいらっしゃると、「何を面白いと思っていらっしゃるのかな」と、くっついて歩いたりしています。

昼間 どこから情報を得て買われているのか、謎なことが多いですよね。売り場にはもちろん、来月の発売表みたいなものを貼っているので、そこをチェックされている律儀なお客様もいますけど。

野沢 ちっちゃな字で書いてありますよね。

細谷 時代小説の読者って、サイレント。ネットで「すげえ、これ面白かったよ」と感想を拡散したりしないから、作家の方も反応がわからないんですよね。売れるか売れないかだけ。

野沢 面白くなかったら、次は買わないだけなんです。

細谷 文庫書下ろしの四半世紀で、変わってないところは、徹底して読者ファーストであること。読者との接点を考え抜いて工夫して、役目は何かと問われたら「読者を楽しませる」に徹しているんです。

 ただ、料理もの以降、大正ものや医療小説など、いろいろ頑張っているんだけど、大きなブレイクスルーになるジャンルは生まれていない。それが次に見つかれば、まだまだいけます。

おすすめブックリスト

細谷正充のお薦め5シリーズ


イクサガミ/今村翔吾 (講談社文庫)
明治時代を舞台にした、サムライたちのデスゲーム。こういうアクション時代小説が読みたかった。

三河雑兵心得/井原忠政 (双葉文庫)
大河戦国小説。徳川家康の家臣になり、雑兵から出世していく主人公の活躍が楽しい。

志記/髙田郁 (ハルキ文庫)
髙田郁の新シリーズ。医者と刀鍛冶を目指す、ふたりの女性の、波乱の人生を見届けたい。

仕立屋お竜/岡本さとる (文春文庫)
ハードなチャンバラと、気持ちのいい人情が、絶妙のバランスで融合している。

妖怪の子預かります/廣嶋玲子 (創元推理文庫)
高い人気を誇る妖怪時代小説。物語に詰め込まれた、妖怪と人間の喜怒哀楽が堪能できる。

野沢香代のお薦め5シリーズ


助太刀稼業/佐伯泰英 (文春文庫)
やはり佐伯先生は面白い。3巻完結ということで、時代小説は長くて苦手と思う方でも、手に取りやすいのではと。

鯖猫長屋ふしぎ草紙/田牧大和 (PHP文芸文庫)
時代小説には猫!が必須かと。猫好きでも、そうでなくても楽しめる本だと思います。

落としの左平次/松下隆一 (ハルキ文庫)
今どきの若者は指示がないと動けない。そんな若者を左平次は今後どうやって一人前にしていくのか、楽しみだし、義理人情が大事だと思わせてくれる小説かと思います。

お勝手のあん/柴田よしき (ハルキ文庫)
生きているだけでもありがたいと思う「やす」が周りの人に助けられて、自身の人生のやりがいをみつけていくこのお話は、たくましさを感じつつ、羨ましさも感じます。

古道具屋 皆塵堂/輪渡颯介 (講談社文庫)
古道具屋に持ち込まれるいわく付きの古道具が引き起こすお話ですが、笑えるけど、あとから怖さもある。登場人物も一癖も二癖もあり、これもまた面白いです。

昼間匠のお薦め5シリーズ


新 本所おけら長屋/畠山健二 (祥伝社文庫)
笑いあり、涙あり、まるで自分も長屋の住人になった気分で毎回楽しめる。まさに読む落語。

寿司銀捕物帖/風野真知雄 (角川文庫)
寿司屋を営む元岡っ引きが再び十手を持つことに! すしネタと絡めた事件も含め風野ワールド全開の最新シリーズ。

出直し神社たね銭貸し/櫻部由美子 (ハルキ文庫)
人生をやり直したい人が訪れる出直し神社の巫女を中心に展開し、毎回やさしい気持ちの読後感を味わえる。

羽州ぼろ鳶組/今村翔吾 (祥伝社文庫)
とにかく登場人物の誰もが魅力的、ハズレなし。時代小説の醍醐味がすべて詰まっている。

目明かし常吉の神楽坂捕物帖/伍代圭佑 (潮文庫)
父の死の謎を追うため、後を継いだ半人前の息子がいかに成長していくかが今後の楽しみ、これぞ正統派捕物帳。

*「オール讀物」2026年1・2月号より転載。文中の年月日などは雑誌発売時のものです。

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