「このボールでW杯をやるのは恥」
イタリア代表の守護神、ジャンルイジ・ブッフォンがそう嘆いたのは、2010年。南アフリカ大会の公式球「ジャブラニ」に対してだった。
ジャブラニは真球性が高い=真ん丸さに加えて表面がツルツルとしていたこともあり、ボールが不規則な動きをする傾向にあった。そのため守備陣だけでなく攻撃陣の選手からも不評を呼んだ。同大会の1試合平均ゴール数は「2.27」で、これはワールドカップとしてワースト2位の数字である。
あれから16年。2026年大会のグループステージ第1節終了時点での1試合平均ゴール数は「3.12」と1点近く増加。日本代表もチュニジア戦で4得点とゴールを量産している。この数字の背景には、選手のパフォーマンス向上だけでなく、公式球の「空力設計」が大きく関わっているかもしれない。
スポーツバイオメカニクスを専門とし、ボールの空力特性を長年研究してきた環太平洋大学体育学部の浅井武教授に、ワールドカップ公式球の変遷や今大会の公式球「トリオンダ」の特性について聞いた。
なぜ、ゴール数が増えているのか?
ジャブラニへの“批判”を経て、2014年ブラジル大会の公式球「ブラズーカ」では方針が転換された。浅井教授によると、表面の粗さを大きくする方向に設計が変わり、安定性とコントロール性が向上したという。その結果、1試合当たりの平均ゴール数は「2.67」へと向上。以降は2018年ロシア大会が「2.64」、2022年カタール大会が「2.69」と推移している。
さらに今回の2026年大会では、グループステージの第1節終了時点で平均ゴール数が「3.12」。今回の公式球である「トリオンダ」による影響もあるのか。浅井教授はトリオンダについて「ゴルフボールに近い特徴がある」と話す。
「表面がツルツルだった2010年大会のジャブラニがピンポン球だとしたら、トリオンダはゴルフボールに近い。ゴルフボールは『ディンプル』と呼ばれる表面の小さなくぼみがポイントなんです。完全に何も凹凸がないツルツルなものと比較して、ある程度ボールに凹凸があると、空気抵抗の低い速度領域が広い。気流などの関係で、不安定な動きが少なくなるんです」

