ドキュメンタリーとフィクションの境界があいまいになっていく
——ゲリン監督の作品は映像の美しさでも知られていますが、窓ガラス越しのショットや、窓に反射する風景を用いた演出は、これまでの作品にも見られる特徴的な手法ですね。本作でも終盤の老夫婦のピアノのシーンに、樹木をかついで坂をのぼって行く人々の姿を重ねる美しいショットに目を瞠りました。こうしたショットには、どのような狙いがあるのでしょうか。
ゲリン 窓に映るバーチャルな映像を重ねると、ある登場人物と、他の人たちを繋げることができるのです。人物をあまりにアップにしてしまうと、その人がどのような状況にいるかということが出せなくなってしまいます。人物にフォーカスしながら、窓に映る映像の中に別の住民たちがいることで、コミュニティ全体を表し、住民同士の繋がりを表現できる。そのためのショットとして使っています。
映画は終わりに向かうにつれて、ドキュメンタリー的な客観性が次第に変化していきます。この映画を私が「ワーキング・プログレス(進行中・未完成品)」と呼ぶ所以がそこにあります。映画自体も、この街も人々も、決して完成形ではなく、常に移り変わっていくのです。
——確かに、ドキュメンタリーとフィクションの境界が次第にあいまいになっていきます。とくにラストは印象的でした。登場人物の多くが集合した祝祭的なシーンは、劇的な終幕を迎えます。
ゲリン 地理的な空間の普遍性と、常に移り変わる人間のコントラストを出したいと考えたというのが一つです。そしてもう一つは、権力の脅威にさらされるのはいつだって「弱い人々」であるということです。このラストは現実への共鳴だと私は思っています。世界中で起こっている排他主義やナショナリズムが常に敵視するものは、そこにいる弱い人々だということを、あのシーンで表したかったのです。
『よき谷の物語』
スペイン、バルセロナ郊外に位置するバルボナ地区。“よき谷”と名付けられたこの場所は川や線路に囲まれ、開発から取り残された陸の孤島でありながら、大都市の近くとは思えないほどの豊かな自然に恵まれた理想郷のようでもある。ここには20世紀半ばから移り住んだ住民の家族と、最近になってやってきた新世代の移民たちが共に暮らしている。文化や生活スタイルは異なるものの、子供たちはともに川で遊び、誰もがよく食べて飲んで、歌い、踊り、ひとときの安らぎを得る。そんな都会のオアシスに、新しく鉄道増設の計画が持ち上がった。住民説明会が開かれ、一部の人々は立ち退きを迫られるが……。
監督・脚本・編集:ホセ・ルイス・ゲリン/2025年/スペイン、フランス/122分/提供:マーメイドフィルム/配給:コピアポア・フィルム/Orfeo Iluso - Perspective Films - 3CAT - Los Ilusos Films - Los Films de Orfeo © 2025/7月3日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

