『大統領のケーキ』

 今回は、いずれもポスターや予告編だけでは映画の魅力がわかりにくい3本だったりする。

 まずは、こちら。日本で公開されるのは珍しい、イラク映画だ。1991年の湾岸戦争停戦後のフセイン独裁体制下での人間模様が描かれる。

『大統領のケーキ』

 小学生のラミアは、フセイン大統領の誕生日を祝うケーキ作りを担任教員に命じられた。用意できなければ、重い罰が待ち受ける。だが、彼女の家は貧しく、街の物価も高騰しているため、ケーキに必要な卵・小麦・牛乳を入手するのは難しい。それでも、スリをしている同級生のサイードとともに必死に材料集めに奔走する——。

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 自身の毎日の食事にすら事欠いているにもかかわらず、独裁者のため——しかもフセイン自身は口にするわけではない——にケーキを作らなければならない。あまりの理不尽に、いたたまれなくなった。あがけばあがくほど、状況は悪くなる。それでもなお懸命に歩き続けるラミアの姿がとにかく健気なだけに、とにかく切ない。

 その一方で、ただの重苦しい社会派作品というだけでないのも素晴らしい。3つの材料を入手するプロセスが「ミッション」として描かれているため、それぞれの局面がスリリングに盛り上がり、退屈させないのだ。

 戦争で街も人心も荒廃し切った中をさまよう主人公という構図は、黒澤明監督の『素晴らしき日曜日』『野良犬』といった戦後すぐの東京を背景にした傑作たちを彷彿とさせるものがある。だが、日本はそれ以降も「戦後」が今に至るまで80年以上も続いている。

 だが、イラクはそうではない。さらなる戦禍が、この何年か後に待ち受けることになる。「戦争は終わっていない——」そんな強烈なメッセージを突きつけてくるラストで物語は幕を閉じる。「戦後」という言葉の尊さを、改めて嚙みしめることのできる作品だった。

『大統領のケーキ』
監督・脚本:ハサン・ハーディ/出演:バニーン・アハマド・ナーイフ、サッジャード・モハンマド・カーセム/2025 年/イラク、アメリカ、カタール/105 分/配給:松竹/ © 2025 TPC FILM LLC. All Rights Reserved./7月10日(金) 新宿ピカデリー、TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー