日本でのポップスターとしてのキャリアを捨て単身ニューヨークへ移住し、ジャズミュージシャンへと転身した大江千里さん(58)。47歳でジャズの名門・米ニュースクールに入学してから10年が経った今、大ヒット曲『格好悪いふられ方』のリリース前には自らのピークを感じていたと人気絶頂だった当時を振り返った(#2に続く)。
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今の東京に居場所はない
おぐら ニューヨークのブルックリンに移住したのが2008年ということで、もう10年になるんですね。
大江 ニュースクールというマンハッタンの学校でジャズを学んで、ちゃんと卒業するっていうのが移住のきっかけでしたけど、その流れでアメリカでも仕事ができるように頑張るかって、そのまま10年経っちゃいました。
おぐら 落ち着く場所になりましたか?
大江 ほっとはしますね。自分の機材があって、犬がいて、友達もいて。あぁ、ここが居場所だなって。
速水 逆に、日本に帰ってきた時の居場所っていうのは、大阪のご実家? それとも東京?
大江 東京に居場所はないですよ。そうなると実家ですかね。父がいて、帰ってきたら必ず追い焚きでお風呂を沸かしてくれて、パンツは自分で洗って、庭に干す。それが里帰りです(笑)。
おぐら たまに来る東京は、どんな街に見えますか?
大江 アメリカに行く前は六本木ヒルズの近所に住んでいて、どこも懐かしくて思い出だらけなんだけど、やっぱりずいぶん変わりました。なんか未来を目指して走り始めてるって感じ。2020年に向けて、タクシーにもオリンピックのロゴがあって、電車の車両には誰にでもわかるようにアルファベットと数字の番号が振ってあって。
おぐら この10年で東京にいる外国人はかなり増えました。観光客だけじゃなく、コンビニや飲食店の店員さんとか。
大江 だって街を歩いていてもカフェに入っても、普通に英語や中国語が聞こえてきますもんね。
速水 ニューヨークでは当たり前の光景が、東京でも。
大江 僕が住んでいた頃も六本木や麻布のあたりは外国人が多かったですけど、何が変わったって、いまや中国人のおばちゃんがおしゃれなアディダスのスニーカーとか履いてるんですよ。10年前にいたおばちゃんは、ピンクのスパッツとか、そういう格好でしたから(笑)。