「スコップを持っていたので切っ先で鼻を3回突いた」

 市中心部から東へ約20キロに位置する東由利法内では5月5日午前8時過ぎ、田んぼの見回りに来ていた男性がクマに襲われ、頭を噛まれるなど重傷を負った。この男性、山田一雄さん(48、仮名)を訪ねた。

「田んぼで軽トラックから降りて、5分後ぐらいでした。トラックを背に3、4メートル離れたところで作業をしていると、背後から『ゴフッ、ガフッ』と呼吸音がした。振り向いたときには腰下の斜め後ろにクマが四つん這いで歩いてきて……。ちょうどスコップを持っていたので切っ先で鼻を3回突いたんです。でもクマは怯みませんでした」

 体長は約1メートル。

ADVERTISEMENT

「クマに押し倒され背中が地面につきました。上顎が右眉の上に当たるような形で3回、強く(かじ)られました。鶏の軟骨を噛む時のような『コリッ』という音がした。ヤバイと思い、腕で頭を防御し、脚も縮めました。クマに攻撃されていたのは20秒ぐらいだったと思います。痛みは感じなかった。私は剣道で発するような奇声を上げました。するとクマは私の頭上を乗り越え、走っていった」(同前)

「ここで死ぬんだ」と思った

 山田さんは血だらけになりながら立ち上がり、手足が動くことを確認。自力で知人が経営する薬局まで車でなんとか辿り着き、ドクターヘリで秋田大学附属病院に運ばれた。

「ヘリに乗って全身麻酔を打たれるまで意識はありました。入院2日目、医者に『脳は大丈夫』と言われましたが、眼球は破裂していました。手術で眼球を縫い、今はシリコンオイルを注入し、潰れた眼球を膨らませている最中です。視力は0.1あるそうです。眉の上の筋肉は麻痺しています。12日間の入院中、医師は感染症を気にして、毎日、縫った所に細い管を3、4本入れ洗浄していました」

 山田さんが見せてくれた右目の上には深い傷が刻まれていた(下写真)。

山田さん(仮名)がクマに受けた右目と右腕の傷跡

「この辺ではみんなクマを見かけるんですが、面倒で通報しないんですよ。でも今回は四方300メートルが見渡せるような田んぼで襲われた。例えば奇声をもっと早く出すなど心の準備があれば被害を抑えられたのではないかと思います」(同前)

子グマが覆いかぶさり「しつこく頭をやられました」

 岩手県紫波郡紫波町山屋。付近では今年4月下旬、盛岡市の55歳の女性がクマに襲われ遺体で発見された。平舘テフさん(84)は5年前の2021年6月26日午後4時過ぎ、自宅裏20メートルの所にある沢への斜面を一歩下った場所で、山菜のミズを採っていた。本人が語る。

「何かガサッと音がしたので振り向くと、親子のクマがいたんですよ。ウワーッと叫びましたが逃げられないので斜面に突っ伏して頭を押さえたんです」

 その頭上に子グマが覆い被さった。

「噛んでいるのか引っ掻いているのかわかりませんが、しつこく頭をやられました。2匹のクマが叫ぶ音が聞こえました。本当に長くて、『ここで死ぬんだ』と思いました。10分ぐらい掻かれていたと思います」

 音がなくなったので平舘さんが顔を上げると、ずっと川の近くのほうに引きずられていたことがわかった。靴は片方が脱げていた。

「立ち上がって『まだ死なねえな』と思い、家のお父さんを呼びました。痛みはなかった。病院で治療のために髪を切るときのほうが、血がくっついて痛かった」

 耳も負傷したが、幸い致命傷は免れ、2週間で治癒した。だが平舘さんの後頭部には今も大きな傷が残る。

クマに襲われた斜面を示す平舘さん

 環境省は15日時点で4〜5月の全国のクマによる人的被害が死者4人を含む19人に上るとしている。クマという“自然災害”は思ったより身近に迫っている。