本来この世に存在しないはずの「異形の遺骨」
野口氏は1995年に父親が亡くなった際、墓じまいをしていてこの遺骨を発見した。
「ミカン箱くらいの木箱の中に、瓦礫がぎっしり入っていましてね、なぜこんなものがと思って探るうち、瓦礫の中に骨が混ざっているのに気づきました。それで、ピンときて……。ああ、これは広島で全滅したと伝え聞いている、祖父母一家のものに違いないと」(野口氏)
2026年2月、神戸市内の会議室で、堀川氏は初めてこの遺骨を目にした。
「野口さんは、小さな紙箱を大切そうに運んできました。そっと蓋を開けると、石ころのようなこぶし大の“塊”が3つ。顔を近づけて凝視するうち、白い骨片が目に入り、息をのみました。溶けかけたガラスやコンクリのような瓦礫の中に、人間の骨が混ざっていたのです」(堀川氏)
半分に引きちぎられた青銅のような眼鏡の縁が、頭蓋骨とおぼしき薄い骨片に溶け込み、その一部は真っ黒焦げの石くれにひっついていた。
「本来、この世に存在しないはずの、異形の遺骨でした」(同前)
この遺骨を保管していた野口氏の父・正隆氏は生涯、広島の惨状をほとんど語ることはなかった。犠牲者の正確な数さえ把握されないその爆心の場所で、一体何が起こっていたのか。
遺骨の公開に先立ち、「原爆で全滅した家族と、残された者たちの足跡を徹底して追うことで、核兵器が使用されたら、町に、人間に何が起きるかを現場の目線から描きたい」と語った堀川氏。祖父一家の壮絶な運命と、無言で遺骨を守り続けた父の戦後についての詳細を綴った「『異形の原爆遺骨』ヒロシマ81年目の真実」は、月刊「文藝春秋」8月号(7月10日発売)、および月刊「文藝春秋」の電子版「文藝春秋PLUS」に掲載される。

