映画プロデューサーとして数々のヒット作を生み出す川村元気にとっての「仕事」とは――。対話集『仕事。』における巨匠たちとの対話で、「集合的無意識」を考え尽くすことの重要性に気づいたという。そんな彼が感じている「次の時代の空気」とは。(全3回の3回目/#1#2より続く)

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開眼前の若者たちへ

――これから文庫『仕事。』を手に取る読者に伝えたい言葉は?

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川村 ありがたいことに『仕事。』は僕と同世代のクリエイターはかなり読んでくれていて、それぞれ「誰の言葉が響いた」と感想をくれるんですが、なかでも『モテキ』以降、僕の映画では相当の数の衣装を担当してくれているスタイリストの伊賀大介さんは、最初から「大学生とか、20代~30代半ばくらいまでの社会人に読んでほしいから、絶対に文庫にしたほうがいい!」と言ってくれていました。

 僕としては、単行本は単行本できれいに作ったし、それなりに思い入れもあって、若者に限らず大人の方々にも読み継がれていって欲しいと思いますが、伊賀さんが言ったように690円で買える文庫の『仕事。』は、いろいろと悟りを開く前、開眼前の若者にも手に取ってもらえたらうれしいですね。

川村元気さん

30代は誰もがいったん立ち止まる時期

――どんな時代でも若者が直面する悩みを、どう認識されていますか?

川村 小説でも音楽でも、20代までは作家やミュージシャンの個人的な体験や記憶から、名作が生まれるものだと思うんです。ただ30代になると、そうもいかなくなってくる。男性も女性もいったん立ち止まって仕事とプライベートのバランスに悩んだりする時期だろうし、場合によっては結婚や家族との関係を見直す人もいるだろうし、実際に『仕事。』で巨匠たちにアタックしていた30代前半の頃の自分を振り返ると、まだまだ仕事で一旗揚げたいという自己承認欲求がある反面、「このままいっても、もたないかも」とどこか限界を感じていた時期でもありました。そんなさまざまな気持ちがないまぜになって、「いろいろと悩んでいたんだなぁ」と思います(苦笑)。

 ちなみに何歳になっても全く限界を感じさせることなく時代の中心であり続けているのが、『仕事。』にも登場いただいた宮崎駿さんと谷川俊太郎さんだと思うんです。宮崎さんは「作品を観ることと、ものを見ることは違う」と、谷川さんは「言語の違いを超えても、人類全体の無意識にアクセスできればいいとずっと思っている」と話されていますが、自分が感じている世の中への違和感や、面白いんじゃないかと心に引っかかっていることが、集合的無意識の中に入っているか。同じように感じている人が何万人、いや、何百万人いるのか。一つの言葉や一枚の絵は、はたして世界の気持ち良さと絶対的に繋がっているのか。そこを自分なりに徹底して考え尽くすことが、『仕事。』以降の僕の仕事のベースにもなっています。

――戦後第一世代の巨匠たちの、現実や問題を直視し、誰かや時代のせいにすることなく、仕事を通して真っ向から答えを出そうとするあり方は、私たちの世代が真似しようと思ってできるものではないのかもしれません。

川村 そうなんですよね。その点においても、宮崎駿さんの「作品を観ることと、ものを見ることは違う」という言葉は、改めて深いよなぁと思います。