【誤解】その3
× 若い人は乳腺が発達しているから「超音波検診」を受けるべき
若い女性にマンモグラフィが推奨されないとしたら、それでも気になる人はどうすればいいのでしょうか。ネットでは「若い女性は乳腺が発達しているので、超音波(エコー)検診を併用するのがお勧め」といった記事が散見されました。
学会のガイドラインによると、超音波検査は被ばくの心配がないだけでなく、乳房のしこりが良性か悪性かを判断するのに有効で、日常診療では欠かせない検査になっています。ただし、がんを早期に見つける目的で行う集団検診に関しては、「本当に超音波検診が乳がん死亡率低下に有効かどうかについては、もう少し検討が必要です」と書かれています。国のガイドラインでも、現時点では超音波検診は推奨されていません。
なぜ推奨されていないのでしょうか。実は国内で、マンモグラフィに超音波を併用した検診の有効性を確かめる臨床試験が行われているのですが、学会のガイドラインにも書かれているように、「超音波検診はマンモグラフィに比べると、治療の必要のない良性の変化を拾い上げすぎる欠点がある」という報告も出ているからです。
それによって、実際には治療の必要がない病変かもしれないのに、「異常あり」とされて受診者を不安にさせたり、不要な再検査や治療が行われたりするリスクがあり得ます。ですから、若い女性に超音波検診を勧めるのは、現時点では慎重であるべきなのです。
【誤解】その4
× とにかく、がん検診を受けるのは「いいこと」だ。
「早期発見・早期治療はいいことだ」と信じて疑わないような書きぶりの記事が目立ちますが、がん検診には必ずデメリットが伴います。この点について、学会のガイドラインには、次のように書かれています。
「最近欧米ではマンモグラフィ検診の効果の見直しが行われ,マンモグラフィ検診による不利益があることもわかってきました。その不利益とはマンモグラフィ検診の偽陽性(マンモグラフィ検診では「がん疑い」とされたものの精密検査で「がんではない」と診断されること)や過剰診断(生命予後に関係のない乳がんの発見・治療)です」
この中で、とくに問題なのが「過剰診断」です。実は「乳がん」と診断される病変の中には、その人の寿命まで命に関わらないものが含まれており、検診を受けるとそうした病変まで拾い上げてしまうのです。
しかし、今のところ、どの人のどの病変が過剰診断にあたるのか、判別することは極めて困難です。そのため「がん」とわかれば放置できないので、本来は治療の必要のない病変だったとしても、手術、放射線、薬物療法などを受けることになり、これによって命を縮めるリスクが生じます。
実際、最近の研究でがん検診にともなう過剰診断は予想以上に多い可能性のあることがわかり、そのために早期発見・早期治療をしても、命が延びない結果になるのではないかと米国の研究者などから指摘されています(BMJ. 2016 Jan 6;352:h6080.)。
米国、英国では40歳代の乳がん検診は推奨されていない
さらに、デメリットがメリットを上回るという判断から、米国や英国では40歳代の乳がん検診は推奨されていません。それだけでなく、近年、欧米からは死亡率を下げる効果自体に疑問符がつく報告も相次いでいます。
こうした点も踏またうえで、私はもはや闇雲にがん検診を勧めたり、集団で受けさせたりすべき時代ではなく、メリット・デメリットを勘案したうえで、その人のがんリスクに応じて、検診を受けるかどうか個別に判断すべきと考えるようになりました。
また、定期的に検診を受ければ安心と思うのではなく、乳房や脇の下のしこり、乳房のくぼみやひきつれ、乳頭からの分泌物など、気になる症状があったときに乳腺の専門医を早く受診して、治療が必要なものかどうか判断してもらうことが大事だと思います。
がん検診には死亡率を下げる効果に限界があり、メリットばかりでなくデメリットもあります。ですから、ただ検診を勧めるような記事は鵜呑みにせず、できれば国立がん研究センターがん情報サービスの解説ページ「がん検診について」や、前出の乳癌学会の患者向けガイドラインなども読んでみて、自分はどうすべきか考えてから、判断することをお勧めします。