【誤解】その1
× 「早期発見できるから」乳がん検診を受けるべきだ
乳がん検診を勧める記事を見ると、決まり文句のように書かれるのが、「早期発見・早期治療が大切」ということです。しかし、他のがんの検診もそうなのですが、国や学会が乳がん検診を推奨しているのは「早期発見できるから」ではなく、「乳がんの死亡者数を減らす効果があるから」なのです。現に、学会のガイドラインには次のような記載があります。
「日本では1987年から問診・視触診による乳がん検診が開始されました。しかし,乳がんの死亡者数を減らすという効果は得られませんでした。これに対してマンモグラフィ検診(筆者注・乳房専用のX線装置による検診)は,しこりとして触れる前の早期乳がんを発見できる可能性があり,欧米では乳がんによる死亡者数を20~30%減少させたと報告されています」
問診・視触診だけの乳がん検診は、死亡者数を減らす効果がなかったために、現在は推奨されていません。なぜ死亡者数を減らせないといけないのでしょうか。それは、がん検診によって早期発見・早期治療できたとしても、それによって命を救うことができなければ、お金を使って早く見つける意味がないからです。
また、乳がんの死亡者数を2割から3割減らせるとはいえ、効果は100%ではないことも頭に入れておくべきでしょう。つまり、定期的に乳がん検診を受け続けたとしても、がんが検診と検診の間に発症したり、進行が早かったりするために、救えない命もあるのです。しかも、減らせるのはあくまで「乳がん」による死亡で、検診を受けたほうが長生きできるかどうか(総死亡率の低下)は証明されていません(Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 4;(6):CD001877.)。
このように、「早期発見できるから」乳がん検診を受けましょうという書き方は誤解を招く恐れがあります。もし乳がん検診を勧めたいなら、少なくとも「乳がんの死亡率を2~3割下げられる」ことを前提に伝えるべきでしょう。
【誤解】その2
× 若い人もお年寄りも、みんな検診を受けたほうがいい
現在、2年に1回の乳がん検診(マンモグラフィ検診)が推奨されているのは、40歳以上の女性です。40歳未満は乳がんになる人が少ないうえに、乳腺が発達して異常が分かりにくいので、マンモグラフィ検診は推奨されていません。
それに、マンモグラフィには、多くないとはいえ「放射線被ばく」のリスクがあり、若い人ほど影響が大きいとされています。乳がん検診について触れる際には、何歳から推奨されているのかを書かないと、若い人までが焦って検診を受けに行き、無用な被ばくのリスクを負わせる可能性があるのです。
また、最新の学会の医師向けガイドライン(「乳癌診療ガイドライン」2018年版)では、上限年齢を「75歳程度とすることが妥当と考える」とのステートメントが加えられました。その理由として、「75歳以上では死亡率低減のエビデンスがないことや、人口動態統計に基づく10年後死亡リスクを勘案して」という点があげられています。
つまり、75歳以上の高齢者が検診を受けて乳がんを見つけたとしても、それ以外の病気で先に亡くなる可能性も高く、検査や治療によって被るデメリットの方が大きいと考えられているのです。このように、乳がんに限らずがん検診には、受診するのに適正な年齢があります。
ただし、例外があります。原則的に乳がん検診は40歳未満には推奨されていませんが、若い人でも遺伝的に乳がんになりやすい人がいます。そのため、学会のガイドラインには「ご家族や血のつながっている方に乳がんにかかった方がたくさんいる場合など,遺伝的に乳がんにかかりやすいと考えられる方は,20~30歳頃からMRIを含めた検診を定期的に受けることが勧められます」とあります。
もし家族や親せきで乳がんになった人が多い場合は、若くても専門医に相談することが大切だと言えるでしょう。