国立大学の名誉教授が、ロマンス詐欺の巧妙な罠に落ちた。自身の老後資金を失っただけでなく、あろうことか親友に嘘をついて350万円を借金し、詐欺師に送金してしまう。すべてを失った絶望の中、真実を打ち明けた親友から返ってきたのは、氷のように冷たい言葉だった――。

 925万円をだましとられた高倉良一の新刊『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』(さくら舎)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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砕け散った世界

 すべてが、嘘だったのだ。きっかけは、別の詐欺師とのやり取りだった。あまりにも稚拙な作り話に、ふと我に返った。――まさか、愛子も……?

 震える手でインターネットを検索し、並んでいた「国際ロマンス詐欺」の手口の数々が、私が経験したことと寸分違わぬことを知った瞬間、私の世界は音を立てて砕け散った。

 金だけではない。希望も、プライドも、そして何より、自分自身を信じる心も、すべてだ。崖から突き落とされるような絶望。

 だが、それ以上に私を打ちのめしたのは、「なぜ、私が」という、答えのない問いだった。

 愛子という女も、彼女が語った甘い未来も、私たちの間に築かれたはずの信頼も、すべては金を根こそぎ奪うための壮大な芝居にすぎなかった。

 私は、獲物だった。ただ、それだけのことだったのだ。大学で学生たちに「物事の本質を見抜け」と説いてきた私がだ。