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「家の給湯器が壊れてな」
我ながら、吐き気がするほどの嘘だった。だが、彼は疑いもせず、350万円という大金をすぐに用意してくれた。
ただ一言、「カミさんには、絶対に言うなよ」と釘を刺して。
私はその信頼を裏切り、会ったこともない女に、友人の虎の子を送金したのだ。悪夢から覚め、すべてが詐欺だったと悟ったあと、私は何日も悩み抜いた末に、大楠へ電話をかけた。
「すまない。実は……私、詐欺に遭ったんだ」
絞り出した声は、自分でも情けないほど震えていた。だが返ってきたのは、予想もしない言葉だった。
「詐欺かどうかは、どうでもいい」
彼の声は氷のように冷たかった。
「大事なのは、いつ返すかだ。それだけだ」
「いつか本にしようと思う」と言うと⋯
愚かにも私は、「この経験を、いつか本にしようと思う」と口走ってしまった。
その瞬間、電話の向こうの空気が凍りついた。
「やめろ」
吐き捨てるような低い声だった。
「不愉快なだけだ。あなたは結局、自分がかわいそうな被害者で、それを乗り越えた立派な人間だって話を書きたいだけだろう。自分を慰めるための物語なんて、誰も読みたくない」
