前回の記事で紹介した、中国内陸部の山村で8体のラブドールと暮らす60歳の「ラブドール仙人」離塵氏。中国ルポライターの安田峰俊氏は、そんな仙人の家にホームステイすることに。

 ブッ飛んだキャラクターの仙人は、次の日になっても相変わらずエキセントリックだった……。

ラブドール仙人の館に泊まり、翌朝に起きて最初に出会った相手が水牛。近所の農家のおっさんがいい笑顔である ©安田峰俊

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虫と水牛とラブドール

 朝の冷気に目を覚ました私は、窓を開けて山地に特有の清冽な空気を肺に吸い込んだ。ここは中華人民共和国、貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州恵水県の外れにある歪刀村。都会の喧騒も大気汚染も無縁の仙境だ。

 部屋から出ると、鳥のさえずりと屋敷の裏を流れる漣河の水音が聞こえてきた。まことに爽やかな朝である。もっとも、私が寝室にあてがわれた部屋の天井から、ラブドールの下着やコスプレ衣装が大量にぶら下がっている点を除けば――、だが。

「おはよう安田。朝メシをつくるぞ」

 裏の果樹園から戻ってきた仙人が、そう言って台所に立った。中国の男は料理ができるのだ。この日の朝食はトマトと卵を炒めた番茄炒雞蛋をおかずに、蜂の幼虫を揚げたやつを白米にぶっかけたものだった。幼虫揚げは見た目はグロテスクだが、いざ口に入れてみたら意外とイケた。貴州省の「ごはんですよ」は虫なのである。

仙人の朝ごはんは虫。カリカリしていておいしい。エビだと思って食べればよい ©安田峰俊

8体のなかには日本製も

 仙人はこの家の2階で8体のラブドールと起居をともにしている。その内訳は、まずは仙人が「娘同然」と呼ぶ最愛の小雪ちゃんで、彼女は小柄な少女ドールである。

 ほかに美人タイプの大人モデルが3体、耳が尖った幻想的なエルフタイプが1体、息子の洋洋くんにプレゼントした1体、マニアから譲られたウレタン製の安価モデル(EX-Lite)が1体あり、ここまではすべて中国メーカーのEXDOLL製だ。

 あと1体は同好の士から譲られた、日本メーカーのLEVEL-D製のヘッドに中国メーカーのボディをくっつけたものである。LEVEL-Dはヘッドの造形のレベルの高さで知られるメーカーで、仙人はその職人技を高く評価しているそうだ。

 それ以外に、実は某中国メーカーから贈られた安価なTPE(熱可塑性エラストマー)製のドールヘッドがあるが、クオリティ的に気に食わないので物置に放置中だ。かつて所有していた日本のO社のドールも、やはり仙人の美的感覚にそぐわなかったので別のドールマニアのところに嫁入りさせてしまった。