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ドール本体だけで160万円以上は使った

中国メーカー製の大人モデル「佳馨」の1体。中国の王朝時代の宮廷衣装を着用。まばゆい ©安田峰俊

「友人から譲られたものもあるが、ドール本体だけでもかれこれ10万元(約162万円)以上は使ったと思う。衣装は200種類以上あるぞ。仕事も一線を退いたし、家におってもヒマだからな」

 仙人は言う。もっとも意外なことに、彼は個々のドールたちに名前を付けず、販売元の製品名でそのまま呼んでいた。別格扱いを受けている小雪ちゃんはさておき、美人タイプのモデルは同型の2体が同名の「佳馨」と呼ばれているなど、案外いい加減だ。

「わしが死んだらあいつらはどうなるかって? 残された者の判断に任せるね。どう処分されたって構わん。わしはドールたちが好きだが、他の者から見たらただの人形だからな」

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「そういう線引きがあるわけなんですね」

「ああ。わしを変態と呼ぶ者の気持ちもわかる。ラブドールを持たない者がそう言うのならば、自分でも同感だな。本物の人間と完全に同じではないからいいんだよ」

 茶を飲みながら幼虫揚げのぶっかけメシを掻き込む私に、仙人はそんなこだわりを語った。

日中合作映画『空海』を視聴するラブドール

 歪刀村で流れる時間はひたすらユルい。日本製ドールのヘッドと中国製ボディの首のジョイント部分の接続がイマイチだからと、金具を加工するために地下の倉庫へ向かった仙人と入れ替わりに、彼の義弟の娘たちが家に遊びに来た。昨日も会った8歳と16歳の子と、詳しい関係は不明だが6歳と10歳くらいの女の子2人だ。

「だって、この家のテレビがでかいんだもん」

 女の子たちはそう言って2階のリビングに上がり、ラブドールが腰掛けているソファにいっしょに座ってシャープ製の大画面テレビを見はじめた。彼女らが選んだ番組はまず、日本のギャグアニメの『干物妹!うまるちゃん』の中国語吹き替え。その次に見たのが、なぜか日中合作映画の『空海−KU-KAI−』である。

仏法を求めて入唐した空海を熱演する染谷将太を見つめる、5体のラブドールと仙人の親戚の娘さんたち。小雪ちゃん(中央)が人間よりもよいポジションでテレビを見ている ©安田峰俊

そして“お姫様ごっこ”を始める親戚の少女たち

 やがて、映画に退屈しはじめた小さい子たちが、机の上に置いてあったラブドール向けの髪飾りを自分の頭にくっつけてお姫様ごっこを始めた。いつもそうやって遊んでいるのだろう。ヤバいのか微笑ましいのか判断に悩む光景である。

「おーい! ドールの首がくっついたぞー!」

 そこに、灰色のジャージを着せた日本製ドールを大事そうに横抱きにしながら、仙人が戻ってきた。彼女をソファに座らせた仙人は、ラブドールのコスチュームを変更して再配置してから「もう昼じゃないか。メシを食わねば」と言い、再び1階に降りていく。

 そんなこんなで半日が終わってしまった。昼食のメニューは青島ビールのロング缶と、朝の余り物の幼虫揚げ、裏の果樹園で採れたキンカンである。うむ、自然の幸がおいしい。