リビングには私のほかに誰もいない……
午後、仙人は庭のミツバチの面倒を見に行ったので、私はWi-Fi環境がいちばん良好な2階のリビングで仕事をすることにした。だが、すでに親戚の子たちは帰ったとはいえ、気が散ってはかどらない。それもそのはず、同じ部屋に「美女」が6人も勢揃いしているからである。
ああ、原稿が進まない。さっき昼寝をしたものの、体の中にビールが残っていてまだ眠い。私もちょっと休憩しよう――。そう思って何気なくソファに目をやると、ドールのなかでいちばんグラマラスなボディを持つエルフタイプの美女「小妖」さんの膝があった。リビングには私のほかに誰もいない。
――つい、小妖さんの太腿を触ってみた。
本物の人体よりもやや硬いが、吸い付くようなシリコンの低反発性が気持ちいい。さっきの子どもたちはドールに触ってママゴトをしていた。私についても、極端にヤバいことをやらなければ仙人は怒るまい。
――さらに調子に乗って、小妖さんの胸を触ってみる。
独特の弾力を持つ乳房の中央に硬い突起が感じられる。私はいつの間にかソファの上に足を伸ばし、小妖さんの膝を枕にして寝っ転がっていた。その姿勢のままで、至近距離にある胸と尻に手を伸ばし再度揉む。すごい、なぜか非常に心が安らぐような気がする。
「楽しんでいるな」
ラブドールに膝枕をされて寝ているという、人生で最悪のタイミングで仙人が戻ってきた。私があたふたしていると「構わん」と手で制する。
「視線の向きにこだわれ!」
「もうすこしドールのポージングを工夫しよう。あと、スマホを貸しなさい。撮影してやる」
仙人はそう言うと、小妖さんの関節をこきこきと動かしはじめた。神は細部に宿るらしく、ドールの指先の位置を工夫するのがコツだという。仙人に指示され、私も姿勢と腕の位置を変える。
「ふはは。いいぞ。素晴らしい! これでいいのだ!」
面白がりはじめた仙人は、私のスマホだけではなく自分のニコン製の一眼レフまで持ち出してパシャパシャと撮りはじめた。やばい、ちょっと楽しい。
「次は身を起こせ。日本製ドールと再会した感じでな。映画っぽくだ!」
「はい! こうでしょうか?」
「細かい部分まで気を抜くな! 視線の向きにこだわれ!」