わが家を見るたびに嘔吐するほど精神を病んでしまった人も……
被害マンションの住民のなかには、無人のわが家を見るたびに精神的な圧迫感で嘔吐する人がいた。「ギソウ」と呼ばれ、いじめに遭っている子どももいる。40戸の共同体は、生活を立て直したい一心で結束していた。
マンションの住民たちは、近隣説明会が終わった後、菓子折りを持って、近所の一軒一軒を回り、平身低頭して解体への同意を取りつけていった。
被害マンションの30代の住民、水谷雄二さん(仮名)は、憤りを抑えて腹の底から絞り出すような声で、私に語った。
「マンションの建て替えは、誰のためでしょうか。僕ら、補修して住めれば、それでよかったんです。自治体に建物の使用禁止命令を出されたとき、無視して居つづけようかと思いました。罰金は300万円です。補修なら、各戸の負担金は500万円。建て替えでは2000万円以上を負担しなくてはなりません。住みつづけるのが一番よかったのです。
でも、UR(都市再生機構)が示した補修案は、バルコニー側全面に太いV字の鉄骨をわたす簡単な図柄のもので、本気で考えてはいなかった。毎日、危険だ、いまにも倒れる、殺人マンションだと騒がれ、建物の価値はゼロだと煽られたら補修の話はまとまらない。全員で退去するしかなかったのです。近隣の人たちだって、そりゃ怖いですよ。なのに行政は、建替え円滑化法を盾に取って、なかなか解体しないんです。だったら最初から使用禁止命令なんて出すな、と言いたい」
最大の難関は、1戸あたり2000万円以上の再建費用を、どう工面するかだ。ほとんどの住民が、住宅ローンを組んでマンションを購入したばかりだった。
金融機関は融資の際、借り手が住宅ローンを返済できなくなった場合に備え、その物件を差し押さえて回収できる権利=「抵当権」を設定している。担保に取った建物と土地を売却して、債務を回収することになっている。
ところが、金融機関は、当初、耐震偽装で使用禁止命令を受けた建物の価値はゼロ、土地の持ち分しか価値はないと主張し、被災者に残額の返済を求めた。
