趣味を続ける秘訣
これほど楽しいのは、誰にも強制されていないから、つまり自由だからでしょう。子どもの頃のピアノはやっぱり習い事として、どこか義務感でやっていた気がする。親に高いピアノ買わせちゃったからおいそれと辞めるなんて言えないし、発表会もあるし……みたいな。
でも今、家にあるピアノは私のお小遣いで買ったものですからね。うまくなろうがならなかろうが、誰に損をさせるわけでもなし、私が楽しければそれでいいじゃん、って。
いまのところ発表というほどの機会はなく、少々人前で連弾した程度ですが、そのうち私のピアノを聴け、とばかりに友人知人に集合をかけるかもしれません。迷惑だろうなあ。
みんな仮病やら用事やら言い訳をつくってゴネるかもしれないけど、しまいには、落語の「寝床」よろしく「聞きゃいいんでしょ、聞きゃ。聞いたからって死ぬわけじゃねえんだから」って渋々足を運んでくれるはず。そのとおり。私のピアノを聞いたとて死にゃあしません(笑)。
俳句もテレビ番組がきっかけでした。高浜虚子のひ孫に当たる星野高士先生に教えていただくという企画がきっかけで、星野先生の主宰する句会に参加するようになったんです。これがもう2年ほど続いていまして、我ながら驚いています。
俳句の何がおもしろいか。ひとつは、これまで知らなかった美しい日本語にたくさん出会えること。そして、なかなかうまくならないこと。少し上達したかと思っても、次にスランプになったりする。ゴルフと同じです。だからやめられない。
それに、20人ほどが集まる句会で、自分の句が選句されたときの嬉しさときたらもうね……。この喜びをもう一度味わいたい! と思ってまたせっせと句作に励むのです。
私は星野先生に出会うまで、俳句のハの字も知りませんでした。未知のことをまるで小学1年生に戻ったように一から学べるって、ほんと楽しい体験です。そして「句会で選ばれたい」みたいな些細なことでいいので、目標を自分に課してみる、というのが、趣味を続ける秘訣かもしれませんね。
※この記事の全文では、「63歳で結婚して良かったこと」を阿川佐和子さんが語っています。
約6900字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年8月号に掲載されています(阿川佐和子「70にして始めよ!」)。
■阿川佐和子(あがわ・さわこ) 1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。エッセイスト、作家。2012年、『聞く力』が年間ベストセラー第1位に。14年、菊池寛賞受賞。新著は『年とる力』。
