高市早苗首相は「責任ある積極財政」を柱に日本経済の持続的成長を目指す“サナエノミクス”を掲げてきた。首相就任以降、株価は上昇する一方、物価高にも拍車がかかっている。今、日本経済に何が起きているのか――。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・グローバル投資ストラテジストを務める山﨑慧氏は、「日本経済は大きな構造変化を迎えている」と指摘する。
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日本経済は、2022年に大きな転換期を迎えました。それは、「インフレ」の進行です。日本の経済規模を表す国内総生産(GDP)には2種類の数字があります。一つが国内で生産されたモノやサービスの付加価値の総額をその時の市場価格で算出した数値である「名目GDP」。もう一つが、物価変動の影響を除いた「実質GDP」です。名目GDPは過去5年間で増加を続け、現在、680兆円までその額を伸ばしています。コロナ禍で一度大きく数字を落としましたが22年以降、最大値を更新し続けているのです。
他方、実質GDPは現在およそ590兆円程度。こちらは17年に記録した580兆円をわずかに上回る程度で10年間、ほぼ横ばいの状況です(表①)。かつては、名目GDPが増えると、実質GDPも同時に増加する傾向にありました。しかしここ数年、名目GDPだけが伸び続け、実質GDPはほとんど伸びていません。その原因は急激な物価高、つまりこれは経済成長ではなく、インフレに他なりません。こうした変化が見られ始めたのが22年から23年にかけてでした。
要因は大きく三つあります。一つ目が、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機。もう一つが、コロナ禍が明けたことによる経済活動の再開とそれに伴うサプライチェーンの混乱。そして三つ目が、急激な円安の進行です。これらの要因をきっかけとして日本社会は、“ゼロインフレ経済”から“インフレ経済”へと構造が変化しました。
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こうした傾向は、データからも明らかです。モノやサービスの価格変動を示す指標として「消費者物価指数」があります。過去30年間横ばいの状態が続いてきましたが、22年頃から昨年にかけて一気に13%も上昇しています。日本銀行が掲げる物価安定目標が「消費者物価上昇率2%」ですから、かなりの勢いでインフレが進んでいることが分かります。消費者物価指数の内訳は、消費者が購入する具体的なモノである「財」とその他の目に見えない「サービス」とに分けられます。まず、財価格の上昇が輸入物価の高騰に引っ張られるかたちで21年頃から始まりました。そして、22年の後半からはサービス価格が上昇に転じ始めました。この間、物価高騰により、それまでと同じ賃金では生活が苦しくなり始めました。そこに人手不足が加わり、企業は賃上げをしなければ採用もままなりません。人件費の高騰がサービス価格の上昇へと繋がり、さらに物価を押し上げる流れなのです。

