では、インフレは日本経済の構造をどのように変えたのでしょうか。ここからはその影響を「政府セクター」「国民セクター」「企業セクター」の三つに分けて見ていきましょう。

 まず「企業セクター」。現在、日経平均株価は最高値を更新し続けています。株価が好調な日本企業の多くは業界のトップランナーで、価格設定能力も高い。つまり、インフレ下でも価格転嫁が可能なのです。加えて外需企業が多いことから円安になればなるほど海外からの収益が増え、株価は上昇します。企業にとってインフレはマイナスよりプラスに働いているのです。景気が上向かない中でも21年の後半から日本の企業利益は好調が続いています。東証株価指数(TOPIX)の1株当たりの純利益は、直近10年間で倍近くまで伸びました。実際、1株当たりの純利益の伸びを見比べると、TOPIXはアメリカの代表的な株価指数であるS&P500と比較しても、もはや遜色ありません。こうした観点から見れば、日経平均株価が急上昇を続け、7万円を突破したことは不思議ではありません。

日経平均は7万円を突破 Ⓒ時事通信社

12年間伸び悩む家計消費

 続いて「国民セクター」はどうでしょうか。20年頃まで、日銀の生活意識アンケート調査における「消費者景況感」と短観における「企業景況感」はほぼ一致していました。ところが、21年頃を境に短観企業景況感の指数だけが上昇し、両者の間に大きな隔たりが生じています。企業の景気認識とは対照的に消費者は日本の景気が良くなっていると感じていないのです。その理由は言うまでもなく物価の高騰です。24年夏以降、コメ価格の高騰が始まり、現在落ち着いたと言ってもそれまでの2倍の価格です。生鮮食品を含めた食品全体の値上がりは止まらず、不動産価格や家賃も大幅に上昇しています。

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 そのため「実質家計消費」(物価変動の影響を除外して実際に購入したモノやサービスの数量ベースで消費水準を測る指標)は、伸び悩んでいます(表②)。消費増税前の“駆け込み需要”があった14年時をいまだに超えられていません。このデータが意味するのは、国民が実質的に最もお金を使うことができたのは、12年前だったということです。「経済の体温計」と言われる株価がこれだけ上昇していながら国民が豊かになったと実感できない理由がここにあります。

 

 今後も、インフレは止まることなく続いていくでしょう。消費者物価指数は前年比プラス約3%のペースで上昇していくと見ています。先日、日銀は政策金利を0.75%から1%まで引き上げましたが、物価上昇に追いついておらず、国民の持つ預金などの資産が目減りする状況は続きます。日本の家計が保有する金融資産のうち、現金・預金の割合は約50%で、額にすると1000兆円に上ります。国民の保有するこれだけの資産がインフレによって徐々に棄損されていくことになるわけです。

※本記事の全文(約6000字)は、月刊「文藝春秋」8月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(山﨑慧「サナエノミクス、なぜ生活は苦しいのか」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
原油高は国民セクターに大打撃
・半減したネット政府債務
・労働力不足が招く低成長

文藝春秋

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サナエノミクス、なぜ生活は苦しいのか

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】高市早苗研究 裏切りと涙のサナエ劇場/米追従は自殺行為だ E・トッド/特集 70歳からが最幸

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