大惨事の予兆
次は「サンシャイン前交差点」にさしかかる。ここは首都高速・東池袋出入口のエリアで、下から見るとリング状に道路が重なり、交わり、離れていくような不思議な構造だ。交差点をVの字に左折すれば、アニメグッズなどを販売する店が密集するオタクの聖地「乙女ロード」に続く。ここでも、交差点左手のファミリーマートの防犯カメラが、青信号で直進する飯塚の車を正確に捉えていた。時刻は午後〇時二三分。次の信号も青で池袋署東池袋交番を通過する。
指定速度時速五〇キロメートルを示す標識があり、飯塚の車は時速五三キロメートルで進む。
道路の状況を整理すると、飯塚は「日出通り」を北から南に進み、まもなく「東池袋交差点」にさしかかる。「日出通り」は、交差点の前で右折専用の二車線(池袋駅方面)と左折専用の二車線(護国寺方面)に分かれる。飯塚は護国寺方面に進む左折専用の二車線のうち、右側を選んだ。奇しくもこの右左折の中央にある分離帯のエリアに、交通違反の取り締まりを行っていた白バイ隊員がいた。日出通りを護国寺方面へ進むと、首都高速とは依然として並行関係だが南北にズレる。つまり、首都高速の圧迫から解放され、視界が一気に開けるはずだ。
しかし――。合流地点の信号は青だ。前方に五〇代男性が運転するバイク便のスクーターが走っていた。飯塚は左折のついでに、いつもの習慣で左車線に移ろうと考えた。このときに出したウィンカーが、正常な走行だったことを示す最後のサインだった。
飯塚は横断歩道にタイヤが乗ったタイミングで、左折と同時に左車線への変更を試みる。さらに、カーブゆえ、断続的にブレーキを踏む、ポンピングブレーキを行おうとした。ウィンカーとハンドルとブレーキの三つをほぼ同じタイミングで操作し、カーブを曲がる。一般的なドライバーであればやらない動作だが、飯塚はコーラスの練習場所に行くため、この道を最低週一回は通っていて、道路状況を理解し操作も慣れていた。ところが、なぜか速度が時速六〇キロメートルに加速する。右車線を時速五〇キロメートルくらいで走行していたスクーターを左から一気に追い抜く。〇時二三分二六秒。飯塚は違和感を覚える。